田嶋由井

「今日カラオケ行かない?」


何度誘われても答えが一緒になってしまうのが悔しかった。


田嶋由井は唇を噛んだ。


「ごめん、私今節約中で。昨日グッズ買っちゃったんだよね」


これなら誤魔化せるはずだ。


『こんなはずじゃなかった』まるで殺人犯の自供みたいだが、この言葉が最も適している。


人が死ぬのは運命だ。という人は大勢いる。ならば、私の運命は悪魔が決めたのかもしれない。父親はあんな形で死に、そのすぐ後に私を置いて母はどこかへ行ってしまった。そんな運命があってたまるものか。


 私は復讐に取り憑かれていた。父を殺した人物を見つけられるのならば何でもするだろう。


「そっか。じゃあ外でランチでもしますか」


「かたじけない」


私がサムライ言葉を話し始めたのは小学生の頃。母親がまだいた頃だ。

5歳の頃、父親を失って絶望していた時だ。

復讐心に燃えた私は必ず真犯人に報いを受けさせるつもりだった。幼いなりに考えてみたが、思い付いたものはどれも実現不可能で再び絶望した。

そんな私を見て母は明るい子になりなさいと言った。5歳の少女にそこまで求めるものかと思うこともあるが、今では母親に感謝している。

母親に明るい子になれと言われた次の日から私はどういう人間が明るいのか、何をすれば明るくなれるのかを必死に考えてみた。


結果変なオタクのような喋り方になってしまったが、浜田恵美は愛嬌があって可愛いと言ってくれた。それ以来私は積極的に友達を作ってみることにしたのだ。


自分のように何かを失っている人とは友達になりやすかった。自然と私は私に重なる人に声をかけていたのだと思う。


しかし、どれだけ友人ができても、どれだけ楽しくても復讐心が消えることはなかった。それどころか、お金を使う度に思い出す。あの忌々しい集団を。


恵美とのランチが終わった。今日は大学の講義を入れていないのでそのまま家に帰ってバイトの支度をする。


家のポストを見ると一通の封筒が入っていた。私は一人暮らしなので自然と手紙の量はすくない。

友人とはSNSでやり取りするので手紙は来ない。クレジットカードの催促状かと思ったが口座と紐付けてあるのでそのはずはない。昨日残高を確認したが充分入金されていたのだ。


封筒を開けると中には手紙と地図が入っていた。


A『○○様へ

私はあなたの秘密を知っているものです。それと同時に、あなたの知りたい秘密も知っております。あなたが人生をかけて追い求めている真実を私だけが知っているのです。今回その秘密をあなた様にお教えいたします。ただし、そのためにはゲームに参加していただく必要があります。

ゲーム内容については当日に詳しくご説明します。

ご都合がつきましたら指定の日時に以下の場所までお越しください。

また、大変恐縮ですが今回のゲームは招待制ですのでお一人または、他のお客様とお越しください。』


運命が私にやっと味方したのだと直感した。これこそ『降って沸いたような話』だ。復讐のチャンスがあるならば私は喜んで参加するだろう。


私が喜びに浸っているとスマホにメッセージが送られてきた。

『こんな手紙が来たんだけど怪しいかな?』

添付された手紙には、私に送られてきた手紙と似ている字体の手紙があった。まさか、恵美も同じ場所に招待されたのだろうか。

地図を見て確信する。これは同じ場所だ。

『怪しいでござる。止めておいた方がよろしゅうござる。』

メッセージではござるを乱用してしまったが、送ったものは仕方がない。


もし、恵美が来るなら復讐の夢はかなわない。第一彼女を危険にさらしたくなかった。親友と呼べる人物を怪しげなゲームに参加させたくなかったのだ。



なぜ手紙の内容が違うのだろうか。どうやら行ってみるしかないようだ。私は復讐者だ。自分の人生をかけて復讐する。


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