第2話大剣の少年と唐突な敵襲
「い、い、異世界だってぇぇぇぇ!」
聞いたことがある。この世界には『異世界に続く道』がどこかにあって、その先には現実の常識が通用しない世界があると。だが、それはあくまでオカルト。現実にあるなんて……思わない。
「そう、異世界。お前らの世界にもあっただろう、異世界に関しての文献は」
異世界に関しての文献……もしかしたらゲームや漫画みたいなものか! ということなら、俺もそれなりの知識はあるぞ。思った以上に、なんとかなる……かも? いや、やっぱり心配だ。
「申し遅れたな。我の名前は『夢幻龍グランツジーク』。お前らの世界とオルタナティブを行き来し、悪を滅する守護龍だ。これからよろしくな」
ドラゴン改めジークは可愛らしい声で言った。言葉は重いが、その音は軽く、どこかあどけなかった。まぁ、そんなことは置いておいて……
「か……」
「か?」
「かっけぇぇぇぇぇ!」
俺はジークの小さな身体に抱きついた。『夢幻龍』……『グランツジーク』……意味はよくわかんないけど、なんかかっけぇ! ちっこいけど、なんかかっけぇ!
「そう褒めるな……ちょっと照れるじゃないか」
ジークはその白い顔を真っ赤にして言った。やはり、かっこよさの裏側にあどけなさがある。
「そういえば、まだお前の名を聞いてなかったな。お前は、なんと言う者だ」
ジークに言われてハッとした。そうだ、まだ俺が名乗ってなかったな。
「俺の名は遠藤雄弥。中学校2年生で、得意教科は国語と体育だ。ま、そう言ってもわかんねぇかもしれないけど。今日からよろしくな、ジーク」
決まった――これぞ、完璧な『相棒への顔合わせ』だ。洋画とか刑事ものとか見ててよかったー。
「了解だ、雄弥。……さて、自己紹介も住んだことだし、そろそろ動こうか」
お、きたきた! ついに俺たちの異世界大冒険が始まるんだな! 魔王、悪魔、ドラゴン……なんでもかかってこいや!
「あ、まだモンスターなんか倒しにいかないぞ。そんな軽装備でモンスターに立ち向かうなんて、馬鹿じゃないか」
「え〜」
俺はガックリと肩を落とした。せっかくジークの戦う姿が見れると思ったのに……ま、一理あるな。死んじまったら元も子もない訳だし。
「まずはこの峠を越えて下町に行くぞ。そこで食料や装備を揃えるんだ。金はこちらで用意してある」
ジークはふふんと鼻息を鳴らした。ありがたい。こちとら学校のカバンと制服、それに部活のユニフォームしか持ってないんでね。
「で、その下町というのはどこにあるんだ」
「そうだな、雄弥の世界の単位で……ざっと30kmくらいか」
「さ、さ、30km!!??」
驚愕と呆れの表情を見せる。30km歩くなんて、どこの強豪野球部のトレーニングだよ!
「そこしかないんだ。ほら、さっさと歩く!」
ジークはそう言い残して、スタスタと歩いていってしまった。正気か、この馬鹿。
「ま、まってよー!」
俺は急いでジークの後を追う。とほほ、先が心配だ。
――
「も、もう無理……腹減った……」
ばたん、大きな音を立て地面に倒れ込む。思えば昼の給食から、何も口にしていない。外は暗くなり、気温はどんどん下がっていく。今は……夜7時くらいだろうか。成長期の俺にこれだけの消費はキツかった。
「なんだ、もうへばったのか。やはり、人間のスケールに合わせるのはなれないものだな」
ジークはやれやれと言った声色で言った。そりゃあ、あんたは『守護龍』とかいう凄そうなやつだからな……
やばい、本気でまずい。意識が朦朧としてきた。ちくしょう、こんなところでダウンするなんて……聞いてねぇぜ……
「おーい、君たち、大丈夫かー」
どこか遠くで、若い男の声がした。その声の主はドシドシと足音を鳴らしながら近づいてくる。
「ありゃ、お腹がすき過ぎちゃって倒れた感じ? ほれ、これ食べな。パンと水」
俺の側まで駆け寄った男は、こちらに食料を手渡してくれた。なんだ、幻覚でも見たのか? それか、神様……そうだ、一応名前を聞いておこう……冥土の土産くらいにはなるだろうし……
「き、きみのなまえは……」
「オレか。オレの名前はアクセル。しがない見習い剣士だぜ」
――
「くぅ〜生き返る〜!」
男から貰った食料と水分を飲み干した俺は、生命への感謝を込めて叫んだ。
「はは、喜んでくれたようで何より!」
男……改めアクセルは人当たりの良い笑顔を浮かべた。想像していたより若い。多分、僕と同い年くらいだ。動きやすそうな軽装と、背中に背負われた体格に見合わぬ深紅の大剣。そして明るい笑顔。印象に残りやすいやつだな。そう思った。
「こんななんも無い所で倒れるなんて……旅人としては失格だぜ? 今回はオレが修行帰りだったから良かったものの」
アクセルは再びニヤリとした。どうやら俺は旅人だと思われているらしい。まぁ、この世界の人には制服が異国の衣装のように見えるよな。
「まぁずっとここにいてもアレだし……オレの家に来ないか? 衣食はそれなりにあるし……夜が明けるまでの仮拠点ってことで」
「いいんですか!」
嬉しさのあまり歓声が出た。元の世界じゃ、こんなオープンでいい人はいない。異世界……思ったよりいい所かも!
「もちろんさ! それにしても……君、何か感じないか?」
「何か?」
アクセルは訝しんだような顔を向けて言った。別に、怪しい雲行きでもないし……
「ふん。この男、鋭いな。獣の気配に気づくとは」
「え、そうなの? ジーク」
「ああ……来るぞ!」
ジークは怒ったような声で警告する。その時、背後で芝生をずさんずさんと踏み鳴らす音が聞こえた。これが、魔……モンスター!?
「グルルルルル……」
声の正体が、月明かりに照らされてあらわになる。その姿は、巨大な狼のようだ。きらきらと光る漆黒の毛。鋭利に尖った白色の牙。そして、額に刻印された三日月。俺の世界の狼とは似ても似つかない、恐ろしい姿をしていた。
「こいつはその額の模様から、人呼んで『ムーンウルフ』! なぜこいつが、こんな平原で……?」
ムーンウルフはジークの発声に、喉なりで対抗する。こうなってしまえば、もう戦闘は避けられない。
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