第5話5

「何か必要な物ありますか?私、洗濯終わったらこれから買い物に行くので、萌さんは家で待ってて下さい」


再び萌とテーブルで向かい合いコーヒーを飲んでいた千紗は、最後の一口を口に入れ終わると萌に言った。


「えっ!私も、私も一緒に行きます!」


萌は、ガバっとイスから立ち上がり、清楚な見かけが今は若干興奮していた。


「いや…別に、普通に近くのスーパー行くだけなんで…帰って来たら、東京観光の計画をちゃんと立ててから、萌さんとは出掛けてご案内しますから…」


千紗は冷静に返した。


すると…


萌は、首を左右に振った後熱弁した。


「私、行きたいんです!千紗さんと一緒に買い物!」


「はっ?何故ですか?」


「何故?あっ…何故…何故と言うのは…」


萌は、何故か凄く戸惑った。


「外は暑いですし、家でゆっくりしてて下さい」


そう言い千紗は、椅子から立ち上がった。


すると…


「私、千紗さんとどうしても一緒に買い物してみたいんです!」


萌が千紗の側に来て、テーブルに両手を着いて千紗の顔をガン見して食い下がる。


その萌が不思議で仕方無くて、今度は千紗が戸惑う番だったが、もうなんとなく面倒くさくなって理由もどうでもよくなった。


「じゃ、一緒に行きましょう。」


「えっ!やったー!千紗さんと一緒に買い物!」


萌が自分の胸の前で両手を組み、ウキウキした表情をした。


何がそんなに嬉しいのか?


やはり千紗は、萌のこの喜びようが本当に不可解で仕方無かった。


しかし…


「じゃあ、私、食器片付けて、お風呂洗いますね」


萌が、テーブルの上の皿に手を伸ばしかけた。


「ちょっ!お預かりしたお嬢様にそんな事させたら、私が怒られますから、萌さんは何もしなくていいんです!」


千紗は更に焦り、萌のその手をつかんだ。


すると萌は、一度真剣に千紗の顔を見て、すぐニコっとして言った。


「怒られる?私が千紗さんのお手伝いをしたいからするんだし、それはちゃんとおじにも言いますから。千紗さんは何も心配しないで」


萌は、笑顔で優しい。


しかし…


何故か千紗は、胸の辺りに不安に似たモヤがかかる。


「さっ!早く片付けて、買い物行きましょ!」


萌はそんな千紗を残し、片付ける皿を手に持つトレーに集め出した。


「萌さん…東京で行きたい場所ってどこかありますか?」


千紗は、モヤモヤを払拭するために、場当たり的に口走った。


すると…


萌は、皿を積んだトレーを一度テーブルに置いて即答した。


「東京タワー!」


「東京…タワー?…スカイツリーじゃ無くて?」


千紗がそう言うと、萌は小首をかしげた。


「スカイツリー?何ですそれ?日本で一番高いのは、東京タワーでしょ?」


「あっ…いや…それは…」


千紗は、いつの話しだよ…と思いなからも、萌が地方から出てきたから仕方無いか…と言葉を飲みこんだ。


「東京タワー!東京タワー!」


萌は、明るい、キラキラした笑顔で連呼する。


千紗が、もうとうの昔に完全に無くしたモノがそこに見えて、千紗は、少し懐かしそうに眺めた。




















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る