第2話2
千紗は、顔色が悪くなったが…
「大丈夫ですよ。主任」と言う多部の言葉を又一切無視して部屋に残し、千紗は、重い足取りで社長室に向かいドアを叩いた。
入るようドアの向こうから社長の声がして、大きく一つ息をして開ける。
千紗が初めて入る社長室は、思った以上に広く、壁のいくつもの絵画や大きなソファが千紗の目を引いた。
もう諦めの気持ちで、正面のデスクの社長椅子に座る中年男性の前に立つ。
「あの…お話があるとの事でおうかがいいたしました」
社長はデスクで手を組んでいたが、急ににっこり笑った。
以外な社長の反応に、千紗は戸惑った。
しかし、次に社長が千紗に聞いた質問は、更に千紗をそうさせた。
「秋野君…君は、本当のお母さんを早くに亡くして本当のお母さんがどんな人か全く知らない上、お父さんと新しいお母さんと上手くいかず絶縁中で独身だと聞いているが、今、同棲しているとか、よく家に来る彼氏とかはいるのかな?」
「えっ…それは…」
何故社長が、千紗のそんな家庭環境を知っているのか、千紗は謎に思った。
しかし、以前、同僚に何度か身の上話しはしたことはあるから、多分それ経由で社長が知っているのだと思った。
「あっ、すまない…これは、セクハラとかでは無いんだ。実は、ちょっと君に、しばらくでいいんで預かって欲しい…女の子…いや…女性…いや、16歳と言ってたから…やっぱり女の子がいてね…」
「えっ?」
「いや…その…我が社の大事な大事な仕事の関係者の姪御さんが、お母様と二人暮らしなんだそうだがお母様が入院されて、夏休みもあって地方から出て来てるそうなんだが、その関係者が急に仕事が忙しくなってしまって面倒を見られなくなってね。誰か、信頼できるしっかりした女性に姪御さんを一ヶ月ばかり預かって貰えないかと頼まれてね。君なら信頼出来ると思ってね…」
千紗は、余りに突然だったし、何故自分なのかが本当にわからなかった。
社内で千紗が対人関係で上手くいっていない事は、いくらなんでも知っているだろうに。
千紗は、怪訝な表情で言った。
「彼氏はいませんが…ですが…私にも仕事がありますが…」
「ああ…それならいいんだ!一ヶ月、朝から晩まで君は姪御さんの面倒だけを見てくれれば。それが君の仕事だ。それに、この仕事が無事終われば、君は昇進して違う部署の課長の椅子を用意してる。頼む。大切な有力な関係者なんだよ。是非君に頼みたい」
「はぁ…」
千紗は、考えこんだ。
「そうだ、今、隣の部屋に姪御さんと関係者がいるんだ。会ってみ給え。実は、顔が君にとても似てるんだよ。親近感が湧くはずだよ!」
社長はそう言い、内線で関係者とその姪を呼んだ。
すぐ、千紗の目の前に二人が来た。
しかし、千紗は、本当に驚く。
姪の顔が社長の言った通り、千紗にそっくりなのだ。
千紗の母は17歳の高校生の時、当時担任教師だった千紗の父との子を妊娠して高校を中退し、当時は合法であったので千紗の父と結婚したが、その子供の千紗を産んでそのまま死んだ。
まるで、死ぬ前の17歳の千紗の母が現実に千紗の前に現れたかのように千紗は感じ、呆然としてしまった。
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