肉まん
第20話 盛況金の玉
「注文伝票の書き方はこれで分かった?」
「はい! 前にバイトしてたところと似てるので大丈夫だと思います!」
「そっか。でも何か分からないことがあったらすぐに聞きに来て。このお店は人の入れ替わり結構早くて、外で待ってたお客さんとかはもたついてると露骨に嫌な顔してくることもあるから。特に常連の変わったおじさんは気を付けて」
「わ、分かりました」
「でも基本的に写真取りに来たって、ワイワイして来店されるお客さんが多いから、他の店ほどクレーム入れてくるようなことはないと思う。こっちも急いでフォローするから、失敗を怖がらずに頑張って」
「はい。ありがとうございます!」
「じゃあ店を……竜居さんもう開けて大丈夫ですか?」
「大丈夫! みんな肩の力抜いて、気楽にね」
彰君を雇ってから程なくして新メニューの胡麻団子がヒット。
目映い金色とその形から『金の玉』という愛称で若年層から支持を得た。
それがきっかけで来店客は急増。
雑誌にも取り上げられ、大学生のバイトさんにパートさんと、現在俺も含めて6人で店は回っている。
俺はほとんどフロアに出ることがなくなって負担は激減。
出費が増えた反面、それ以上に利益も出ているけど……やっぱりこの店の狭さだとこれ以上はなかなか難しい。
彰君のバイトさん指導も様になってきたし、停滞してたダンジョン探索に時間を割こうかな。
彰君の様子見つつ、急遽止まっちゃったラーメンの麺作りもちゃんとしてかないと。
やりたいことやらないといけないこと……嬉しい悲鳴が上がる状況ってこういう店を経営してる身からすると最高だって分かるんだけど……。
「――3卓、『金の玉』2つ出ます! それとこっち、セットメニュー分の『金の玉』持ってきますね!」
「は、はいよ」
……。……。……。
嫌だあああああああああああああ!!
金の玉って言葉が飛び交う飲食店嫌だあ!!
メディアのせいで定着しちゃったもんだから彰君たちもお客さんたちも平気でそう呼んじゃってるし、だからと言って今さらそう呼ぶなとも言えないし……。
「これもあいつがテレビで変なこと言うから……」
「おいっすー久しぶり! いやあ盛況みたいだね!」
出たよ。
諸悪の根元、相坂真波。
平気で裏口から厨房に入るのももう慣れたな。
というかこれだけ人気が出ると変に正面から顔出される方が困る。
「もう少しでランチ終わるから悪いけどそれまで待っててくれ」
「待てってどのくらい?」
「えーっと……あと30分くらい」
「それじゃあ撮影間に合わないんだよね」
「ちょっと前からは信じられないセリフ……」
「本当にね。でも年末の忙しい時期に休みがとれない分他で出来るだけ連休とるからってマネージャーさんも言ってくれてるし、売れっ子の中じゃ結構寝れてる方だよ」
「そっかそっか。ま、それでも体には気を付けなよ。胡麻団子なら直ぐ渡せるけど、持ってく?」
「うん! じゃあ……金の玉4つで!」
「はぁ。なんでその呼び方しちゃったかなあ……」
「しょうがないじゃん! こんな見た目なら誰だって言っちゃうよ」
「そうかなぁ」
「そうなの! あ、あと卵ももらってくね!」
「はいはい。勝手にどうぞ」
「あー、本当はしょっぱい系食べたかったんだけどなぁ」
容赦なく卵をパックに詰めながらちらちら視線を送ってくる真波。
認めるのは癪だけど流石にアイドル。
この仕草、やたらと可愛い。
今は要求に答えるのは無理だけど……。
「分かった。次来る時までには何か用意しとくよ」
「さっすが! 察しがいいですな、私の幼馴染みは。これが以心伝心ってやつ? 相性抜群抜群!」
「それは言い過ぎ。冗談はさておき、早く戻った方がいいんじゃないか?」
「冗談ってわけでもないんだけどなあ。とにかく、金●と卵もらってくね!サンキュ!」
「『の』をつけろよ! 『の』を! ……ったく。いつも通り騒々しいやつだよ。それにしても……しょっぱい系で持ち帰り向きで、腹にたまりそうなものねぇ……」
パッと思い浮かばないな。
うーん……。
あ、そういえばダンジョンの第3区画解放のあと1匹ってホーンボア……豚肉だったっけ。
豚肉、肉料理、肉巻きおにぎりは食べにくいだろうし専門外、なら……肉まんがベストっぽいな。
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