第19話 金の胡麻団子

「「ありがとうございました!」」


「――ふぅ……。今日も終わった終わった。彰君、初日お疲れ様。疲れたでしょ?」

「そうですね。多分ですけど、まだまだ接客に無駄があるからだと思います。ラーメン作りのためにはこの課題もクリアしないと……。自分は未熟者だって改めて思い知らされました」


 コム粉粉砕玉砕大喝采事件の時も糞真面目だって思ったけど、こりゃ筋金入りだな。


「謙遜し過ぎるのもどうかと思うけど……。とにかくお疲れお疲れ。飯食ってくでしょ? というかもう用意始めてるからテーブル片付けたら座って待ってて」

「えっと……いいんですか? お昼もいただいたのに……」

「勿論。あ、まかない飯で給料から天引き、なんてことはしないからそれは安心して。それに、店の飯を食べるのも勉強になるでしょ?」

「それは、確かに!」

「今回は時間あるからちゃんとしたの持ってくよ」


 ダンジョン探索までして、てんやわんやの1日がようやく終了。


 いろいろあったけど、こんなに動いてこれだけの疲れなのには正直驚いている。


 1人じゃないって最高だね。


 中華そばに関してはちょっとやる気を削がれたけど……。


「この輝き、もちもちの生地……あんな作られ方を見せられたってのに、涎がとまんねぇよ。早く食いてえ」


 野菜炒めにささみチャーシュー丼と伝家の宝刀卵スープ、そして今日のデザート胡麻団子。


 午前中に餡の仕込みは終わらせてある。

 あとはこのコムボールのドロップ品であるもちもち玉(団子)にくるませて白胡麻をまぶして揚げるだけ。


 コム粉が金色だったからもしかして、と思ったがこちらも金色の見た目で、卵スープに負けず劣らずの映え。


 コムボールの肛門から噴射されたのも大玉も白色だったから、あれが直接のドロップ品っていうわけではない、って信じたい。


 そう。ダンジョンなんてよく分からないものなんだから、その可能性だってある。絶対ある!


「――さて、そんなのはもう考えないことにして揚げるとしますか」


 俺は既に準備完了の他メニューをおぼんに乗せると、10個分に分けたもちもち玉を広げて丁寧に餡を詰めていく。


 生地は硬くないのに何故かいくら引っ張っても破けない。

 だからたい焼きの尻尾までぎっちぎちに餡が詰まったやつが好きな俺は、これでもかと餡を詰める。


 そして白胡麻をケチることなく使ってさっと油の中へ。



 ――パチ、パチパチ。



 160℃の油の中をゆっくりと泳ぐ胡麻団子。

 揚げるとその色が目立たなくなるかと思いきや、光沢を帯びた分、より金色は強くなる。


 これはこれで綺麗だけど……ただ揚げるタイミングが掴めなくなるのが難点――


「これは……このタイミングでいいってことお?」


 胡麻団子が一瞬電気を発したかのように光った。


 これが合図と信じて俺はすかさず胡麻団子を油から上げた。


「お、おお……」


 金粉が張り付いているような輝き。

 美味しそうかと聞かれれば、成金が好きそうって返したくなる見た目。


 これ……本当に美味いのかな?


 あれだけ期待してた気持ちに若干の陰りを含ませながらも俺はそれと他の料理を彰君のいる卓へ運ぶ。


「――ごめんごめん、 結構待たせちゃって」

「いいえ全然そんなに待っては……」


 彰君もこの胡麻団子の見た目には同様を隠せないのか、恐ろしいくらいに目を見開き、もはや他の料理なんか目に入っていない。


 本当はデザートは最後派なんだけど俺も気になるし……


「実は初日の祝いがてら特別に胡麻団子を作ってみたんだ。明日からもよろしくお願いします。程ほどに力を抜きながら頑張ってこうね」

「は、はい! 俺……程ほどに頑張ります!」

「ははは、本当に真面目だな彰君は。折角の揚げたてだし、先に1個ずつ食べてみようか」

「はい! いただきます!」

「いただきます」


 ――ぱり。


 それっぽく彰君を誘導して俺も一口。


 すると薄く軽い食感がまず楽しませ、小麦じゃないけど小麦のような香りと胡麻の香りが鼻を抜けた。


 そして油のギトギトとした感じもないまま、餡の周りのもちっとした生地に到着。


 粘っこくなく固すぎるわけでもなく、噛む度に甘味が増す生地は表面のカリカリとした食感と合体して飽きることがない。


 これだけでも十分に美味しい胡麻団子だけど、これに餡が絡まって……美味い。


 普通の胡麻団子よりも弾力がある分1個でも満足感が高い。


 それになんか脚の痛みが……なくなった?


「美味いです! それになんかこれ食べただけで元気100倍になった気が……。この胡麻団子、魔法にでもかけられてるんですか?」

「そ、そんなわけないじゃん! 何言ってるのさ!」

「そうですよね! あははは!」


 あながちその可能性がなきにしもあらずで笑いが乾いてしまった。


 にしても……これだけ美味いって言ってもらえるとそれだけで元気が出るし、これもメニューに加えようか――


「この調子ならまだ働けそうです!中華そばの麺についてもちょっと――」

「いや、それは別日にしよう」


 いくら元気が湧いたからってなぁ……やっぱり今日は、オレコムギコミタクナイ。

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