第15話 コムボール
「というわけで制限時間2時間。【コムボール】討伐に行くぞ!」
『了解っす(*’▽’)』
ランチタイムを乗り切り、米の準備と洗い物を全て彰君に全て押し付けて俺はダンジョンに来ていた。
『なんでそんなに時間空けるんですか』と聞かれたけど、『そのうち教えるから』って言ったらなんか感心した顔をされて……なんか変なところで俺が持ち上げられてるみたいで怖かったけど、取り敢えずは不審に思われなかったっぽい。
何が起きるか分からないし、ダンジョンのことはできるだけ秘密にしておいた方がやっぱりいいもんね。
ただ保健所の人にささみとか卵を企業ブランドの鶏って嘘というか変な言い方してるのはヤバいかもしれないけど。
まぁあの人たちも念入りにチェックするからって、食材を持ち帰って検査した身。
1度問題なしと判断した分、これ以上深入りはしない……と思う。
『仲間に【餌泥棒】殺し頼んだので問題ないっす。餌の【タッケタッケ】が足んないのでそれも採取頼んます』
「……。にしてもお前日本語上手くなったな。軽い感じがめちゃくちゃ気になりはするけど」
『あざっ!!』
ついでに何匹かキラーフィッシュの身も集めたいから今回もイキリ爺を同行させようと声を掛けたけど、こいつが地面に書く文章が日に日に上手くなってて、いいことなんだけどなんでこんなに鼻につくんだろ?
やっぱ顔文字かな?
多分だけどそのうちおっさん構文とかも覚えるだろこれ。
「それじゃあ第2区画まで走って――」
「ちっちっちっちっちっちっちっち」
「え? なにどうしたの?」
「ききぃぃ……。ふううぅ……」
「うん。凄い筋肉だとは思うけど」
早速コムボールのいる第2区画へ向かおうとすると、イキリ爺はその大腿筋を見せびらかしてきた。
以前よりも確かにデカくなってるけど、ついでにランクがいつの間にか【H-】になってることにも気付いてるけど……だからどうした?
キラーフィッシュの一件で筋肉をひけらかしたいみたいな悪癖が身についたか?
だとしたら、こりゃあ厄介だぞ。
『今の俺なら主人を乗せてけますぜ』
「ああ。そういうこと。うーん、夜の営業もあるし、確かにここで疲れを溜めないのはいいか……。じゃあ頼んでもいい?」
「ききっ!!」
「おおっ!」
俺の返事を聞きにやりと嘴を変な方向に曲げたイキリ爺は勢いよく俺を持ち上げると、予備動作無しにいきなり走り出した。
その変な顔にツッコミを入れてやりたいのは山々だけど……。
いや、確かにこれは凄い。
前に第2区画まで移動した時よりも確実に速いし、スピードが落ちない。
それに筋肉隆々な腕のお蔭で揺れも少ない。
元々鶏とかダチョウとか飛べない鳥って早く走るというかずっと走れるみたいなイメージがあるけど、マッスルチキンもそんな強みというか特徴を持っているのかもしれない。
あんま言いたくないけどなんだかんだこいつって優秀よな。
「――き、ぎぃぃい」
「もう、着いたよ。お疲れお疲れ。いやあ、凄い脚じゃん」
「げひひ」
第2区画に到着。
流石に疲れたのかイキリ爺は俺を下ろすとその場に座り込んだ。
それでも特大のどや顔を見せるあたり、やっぱりこいつらしいけど。
ただキラーフィッシュの身集めにはすぐに移れないか。
移動用のマッスルチキンを2、3匹育成させるのもいいかもな。
テイムなんてできなくても、イキリ爺がいればマッスルチキンの殆どは言うこと聞くし。
「キラーフィッシュは後にするからお前はここでちょっと休んでてくれ。俺は、コムボールを探してくる」
「ぎきぃ」
お疲れのイキリ爺に待機命令を出すと、俺は小川の脇にある森への入口に足を踏み入れる。
ここには採取野菜の【タッケタッケ】がいやってほど生えていて、どうやら【ゲキネギ】っていう野菜も採れるらしい。
普通野菜って畑で収穫するものだと思うんだけど、こうやって野生のものを採取するってのがやっぱダンジョンって感じがするよな。
「それより今は……あっ! あったあった! この痕跡!」
前にたまたまコムボールを見たときもこの白い痕が周りにあって、今回この短時間でコムボールを狩れると思ったのも、コムボールはこの痕跡のお蔭で簡単に探せると踏んでいたから。
痕跡が大分薄くなってるところを見ると、ちょっと歩く必要はあるかもだけど予想通り時間的に問題はないな。
「はてさて……そろそろいるんじゃないか?」
――めき。
歩くこと10分。落ちた木の枝が折れる音が正面の繁み辺りから聞こえてきた。
コムボール自体は大きな身体じゃないし地味なんだけど、この音を出す『大玉』はやっぱり目立つ。
それでもって、これが護摩壇後の素材になるということは、キラーフィッシュ同様あんまり言えないな。
「だって、これどう見たってフンコロガシだもん」
こんな白い大玉を小さい身体でせっせと運ぶ虫の姿……ファー●ルが見たら絶対嬉しょんするでしょ。
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