第16話 大玉転がし

「い、ぎ゛っ?」

「気づかれたか。じゃあ早速戦闘、の前に……ふーん。ランク低いね、あんた」


『コムボール(団子)【I+】』


 目に映った情報に対してイキリ爺ばりに自分の強さに胡坐をかくと、俺は相手にプレッシャーを与える意味でどや顔を向けたのだが、よく見ると気になる文がそこにあった。


 団子……。

 キラーフィッシュの身に生と乾燥の2つがあったように、コムボールに関してもいろんな種類があるっぽい。


 コムボールの『コ』が『粉』を現してるってことなら、今回のコムボールのドロップ品は上新粉、白玉粉を合わせた生地ってことかな?


 出来れば自分である程度調整できるようにしたいけど、それはコムボールってモンスターのドロップ品だとちょっと難しいのかもしれない。


「肝心なラーメン用って感じじゃないけど……サブクエの『胡麻団子』作りにはもってこいの個体が当たったみたいだからラッキーってことで……。さ、どうやって倒そう――」

「いぎっ!」


 俺という相手が格上だと悟ったのか、コムボールは玉砕覚悟の突進攻撃で攻めてきた。


 これが結構早いし……転がってるだけなのに大玉もっと大きくなって俺の身長くらいに。


 あれ? これ結構ヤバくないか?


「避け、きれないっ! ならもう俺も突っ込んだらあ!! でも、念には念で身体強化小(脚)は使わせてもらうけどお!」


 たかだかランク【I+】のモンスター。

 俺は自分の強さを信じ……きることはせずにスキルを発動させると、サバイバルナイフを構えて大玉に突っ込んだ。


 見た目以上に重い大玉はコムボールの鍛えられたであろう脚に押されることで、その威力を増加。


 サバイバルナイフは刺さったには刺さったが、それを切り裂くほどの勢いはない。


 想像以上の重さに俺の腕が悲鳴を上げる。


 これ、身体強化小(脚)使ってなかったらこんなに踏ん張れなかったかも。

 ランクは高いけど、そろそろスキルを潤沢にするように強い敵の討伐も視野に入れないと駄目か。


 使える合うスキルが少ないと、戦い方に限界があ――


 そういえば、このスキルって『もう1回』使えるのかな?


「身体強化小(脚)! あ、これなら……。く、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」


 スキルの重ね掛けは可能。

 脚に一瞬痺れるような痛みがあったものの、明らかに踏ん張れる。


 脚の強化のお蔭でいくらか腕は楽。

一歩一歩、一歩一歩押し返して、サバイバルナイフをもっと深く深く……イケる! このまま切れるっ!!


「きぎっ!!」

「いよっしゃああああああああ!! ってこれ一気に消えるのかよ!」


『コムボールの大玉を破壊しました。もちもち玉(団子)【F+】がドロップ。自動的にアイテム欄へと移動しました。スキル身体強化小(腕)を取得しました。ランクアップまでに必要な経験値が加算されました』


 チキンチキンと同じで倒さなくてもドロップできるタイプのモンスター。

 ってことはこいつ絶対捕まえた方がいいじゃんっ!


「でも……お前と飛べるのか?」

「き、ききききききききききききっ!!」


 危険信号を発しながら逃走を図るコムボール。


 ヤバい。あの玉がないとただの小っちゃい虫だから目で追うのがキツイ。


 それに今ので脚が……なるほど、スキルの重ね掛けはリスクが大きいと。


「これだとイキリ爺のところに戻るのもちょっと大変か……。時間間に合――」

「ごがあっ!!」

「いぎっ!?」


 俺がその場で動けなくなっていると、背後から一匹の筋肉隆々の鳥が颯爽と飛び出てきた。


 もうこれは言ってやるしかない。


「イキリ爺。お魔え優秀――」

「ご、がががっ!」

「い、ぎぎぎぎぎぎぎぎっぎぎぎぎぎっ!」

「ダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメ!! 食べちゃ駄目だって!! おま、食欲が絡むと本当に駄目な奴だな!! って、え?」


『てへぺろ』


「ふっる。古さが中年の域だよ、お前」

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