第3話 クソリプ

「えーっと。アイテム欄から取り出し……いけるな! よっこら……どっせーい!!」


 ダンジョン探索から帰ってきた俺は早速厨房に戻ってありったけのチキンチキンの卵を取り出した。

 親父の手紙によると、1回ダンジョンに入ると以降はこっちでもステータスを見れたりアイテムを取り出すことができるらしい。


 そして次に扉が出現するのは3日後になると手紙に書いてあったから、目一杯卵をとってきたというわけ。

 あ、ついでに言うとダンジョンで手に入れた素材には消費期限がないんだってさ。


 テイムしたチキンチキンは計10匹。

 手に入れた卵は100個。

 かかった時間は5時間。


 チキンチキンたちは1時間で2個卵を産めるというとんでも性能だということも分かり、最初のあの苛つくチキンチキン(電話越しイキリ自宅警備員おっさん)、愛称イキリ爺にその採取と管理を任せてきた。


 人間味があると思っていたが、あいつだけ他の個体と違って頭が良く、俺の言葉も簡単に理解してくれて……もしかしたら親父と面識のある個体だったのかもしれない。


「さてさてとんでも食材なのは間違いないし、コスパも最強だけど……問題は味と安全性。腹を壊す覚悟でやっぱ卵かけご飯、TKG一択だよな!」


 ストックしてあったレンチンご飯200グラムを温め、茶碗に移す。

 素の卵の味を感じつつも中華風にしたくてごま油とオイスターソースを振りかけ、簡単コク旨TKGの完成。


 簡単だけどこういうのでいいんだよ。こういうので。


「早速混ぜ合わせたいところだけどこの卵……ブランド卵より色が濃くない? 黄色というよりもオレンジ、というかもう赤。これ、映えってやつだ。間違いなく。……待てよ、これで卵スープを作ったらもっと映えるんじゃないか? えっと、まだ出汁残ってたよな?」


 俺はこの店の根幹とも言える特製の中華出汁を大鍋から小鍋に移すと再沸騰。

 味付けは塩だけで、溶き卵が固まると刻みネギを投入。

 見た目は卵スープというかトマトスープにしか見えないほど赤くて辛そうにすら思える。


 それに気になったのは、卵を入れただけなのに出汁のものとは別に若干の脂が浮いていること。

 キラキラと光るそれは宝石のように美しいが、くどくなってしまっていないか少し不安がよぎる。


「まあなんにせよ食ってみないとだな」


 2品を並べて写真を撮るとSNSにアップロード。

 反応を気にしながら俺はまず卵スープに手を伸ばした。


「うっっっっっまっ!! 何だこれ! 全然くどくない! 変な癖もないし、今日作った出汁が十数時間も火にかけたみたいな旨味を出して、高級感というか手間暇を感じる味になった……。チキンチキンの卵、完全に舐めてたわ。となるとこっちも……」


 卵スープからTKGに視線を移し、早速黄身を崩し混ぜ合わせる。

 相変わらず真っ赤な見た目は衝撃的だが、まるで小籠包のように黄身とは別に上質な脂が溢れ出る様は食欲をそそる。


「うん。こっちも美味い。普通じゃない」


 見た目以上にべたつきを感じない脂は卵かけご飯にすることで甘みをより強く感じさせてくれる。

 ごま油が邪魔になるかもしれないとも思ったがそんなこともなく、白身部分は通常の卵と比べて火が通りやすいのか、ご飯の熱だけで簡単に白く色づき硬さが残っている。


 卵かけご飯というよりは目玉焼きを乗せて食べてるような感覚。


 これは好みが分かれるところかもしれないけど、あのドロっと感が駄目な人でも食べやすいかも。


「あとは腹が壊れないことを祈りつつ、明日検便。それで問題なければ店で――」


 ――ピコーン。ピコーン。ピコーン。


「またクソリプか? まったくあの常連客連中こんな時間まで暇なのかよ」


 卵の可能性に胸を躍らせていると、またスマホが鳴った。


 だが今度の内容はさっきまでとは違い……。


『これこれこれ! これだよ! 俺が求めてたのは! いつからこの単語スープ復活するんですか?』

『これ本当に卵かけご飯? 激辛料理じゃなくて? めっちゃ気になるんだけど』

『うまそ』


「お前ら掌返し凄すぎかよ!!」


 RTといいねはあっという間に4桁を超え、まだまだ伸びていくのだった。

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