第2話 チキンチキン
「ごがあああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!!」
「うっさいうっさいうっさいうっさい! 怖いよりうっさいって!」
俺の姿に怯えたモンスターは急ぎ足で薄暗いこのやたらと広いダンジョンという名前の洞窟奥へ逃げていった。
ゲームみたいに名前がその姿の頭上に現れているけど……『チキンチキン』って、分かりやすい雑魚モンスターだな。
見た目は牙が鋭くてごっついダチョウみたいでめっちゃ怖いのに。
「ま、雑魚っていっても俺が倒せるとは限らないけど。俺、スポーツとか一切やったことないし」
でも親父が狩りできてたくらいだから何とかなりそうだけど……。
適当にその辺にあった十徳ナイフ持ってきたけど、これじゃ無理か?
「……。いや、いやいやいや。ダンジョンなら魔法とかスキルとか使えるのが普通だよな? でもどうすれば使えるんだ? ……。ファイアボール!!!!!!!!!! ……。アクア、えっと……アクアインパクト!!!!!!!!!! ……。やっば、これ知ってる人には絶対見せらんないや」
全力でそれっぽい魔法を派手に体を動かして叫んでみたが、反応はなし。
「ぷふっ」
「ああん……」
さっき逃げていったチキンチキンが近くにあった岩陰から俺を見て笑いやがったから、これでもかとにらみを利かせてやった。
チキンチキンの癖に生意気だぞ!
「内弁慶の小心者。電話越しイキリ自宅警備員おじさんってあだ名をお前には授けよう。えっと、そんなことよりなんかファンタジー的に戦う方法を……親父の手紙になんか書いてないかな?」
ポケットにしまっておいた手紙を広げる。
なになに、万が一扉を開けた場合は『ステータス』と唱えろ、か。
「いよいよダンジョンって感じになってきたな。頼むぞ、チートスキル来い! 『ステータス』!」
◇
名前:竜居忠利(たついただとし)
ドロップレベル:1
スキル:1階層マップ
取得ドロップ品:なし
ダンジョン適用武器:十徳ナイフ
◇
「なんかパッとしないんだけど。もっとガチャガチャしたの想像してたんだけど。一般的なパラメーターとかレベルシステムはないのちょっと萎え」
「ぷふふ……」
「お前ちょっと黙っとけや!! ちょっと気づいたの遅れたけど、お前の名前の横! それランク【K】ってなんやねん! 【F】より下とか滅茶苦茶雑魚だろ! スキルも魔法もないけどお前くらいこの腕っぷしだけで十分やれるんだから! 多分……」
「ごがぁ……」
「はぁあぁぁあぁ……」
俺とチキンチキン(電話越しイキリ自宅警備員おじさん)との間で戦闘のゴングが鳴った。
互いが互いを見下すレベルの低い戦闘。
負けられない戦いがここにある。
「ごがああ!!」
「見えてるんだよ! そんなのは!」
まず仕掛けてきたのはチキンチキン。
黄色くて柔らかそうな見た目の嘴で思い切り突いてきた。
とはいえ遅い。遅すぎて欠伸が出るくらい遅い。
俺はそれを躱すだけではなく、反撃のために拳を強く握り振りかぶる。
そしてその拳でチキンチキンの顔面にカウンター。
手応えはよし! このままたたみ掛けてや――
「ご、あがががあが!! ぷひぃ!」
「え? ……。お前、歯ごたえもプライドもなさすぎだろ」
顔面を殴られたチキンチキンは追撃を食らわせようとする俺に命乞い。
頭を地面に擦りつけ、目をうるうるさせながら艶めかしく足を交差させる。
いや、別にお色気はいらんけど……なんか可哀想かも。
本当は殺してドロップレベル上げたりとか、そもそもそのドロップ品がどんなものか見たかったんだけど、ここまでされるとちょっとなあ。
どうしようかなぁ。
「ご、がああが……」
「え?」
俺の微妙な様子に気づいたのか、チキンチキンはその尻部分からきらりと光る1つの卵を産むと、それをそっと俺に渡してきた。
『チキンチキンの卵(食材):F』
「Fランクの……食材? これくれるのか?」
「ごがあ!」
『チキンチキンをテイムすることができます。テイムしますか?』
献上品を受け取ると、無機質なアナウンスが流れた。
なるほど。こうやって食材を、宝の山を手に入れることもできると……。
こいつだけじゃなくてもっともっとテイム出来れば……仕入れ代0円で無限に卵ゲットじゃん。
「ま、あとは味だけど……。とりあえずあと10個くらい。それとお前の仲間のいる場所をちょおっと教えてくんね?」
俺は悪役顔負けの笑い顔でチキンチキンを脅すと、卵が拾得ドロップ欄に追加されたのを確認してより多くの卵を求めてチキンチキンと共にダンジョンを進むのだった。
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