第6話 デートをするのです

そんなこんなしながら学校へ着くと、走り寄ってくる人の気配。この気配は…。危険を察知した僕は身構える。


「はーるとくーん!!」


最初の清楚キャラはどこへ消えたんだろうか。純朴なる男子たちのパンツは何色論争はいつの間にかどこかへ消えたな…。僕は断然白より水色派だけど。


「月野、抱きつくな」


駆け寄ってきて当たり前のように僕に抱きつこうとする月野を手で制する。すると、月野はぷくっと頬を膨らました。いや、その顔はどこまでも可愛いけれど。


「なんで!?私達、デートする…」


とんでもないことを大声で言い出しそうになった月野の口を思い切り押さえる。こいつは、声デカいわ、言っちゃいけないこと言おうとするわ…。月野の言動に呆れながらも僕は萌が近くにいないかきょろきょろと辺りを見回す。


「それは絶対誰にも内緒って話だろ!?」


僕の問いに、月野はこくっと頷いた。いや、わかってるなら守ろうね?さっき何を大声で言おうとしてたのかな?


「だから、2人のときにこうして…」


「どう考えても周りに聞こえる声でしたよね!?」


茶番もこの辺にして、僕は月野の耳元に口を近づける。この姿も十分怪しいけれど、内容を聞かれる方が危険である。だから、僕はできるだけ周りに聞こえないように小声で言った。


「誰にも言ってないだろうな」


僕の言葉に月野はにこっと笑みを作る。その笑顔に何人の男子が騙されているのだろう。他クラスの男子はまだ騙され続けてるやついるんだろうな…。


「もちろん!」


月野の言葉にほっと胸をなでおろす。その言葉が本当に信用できるものかどうかはわからないけれどとりあえず信じておくしかない。僕が謎の安心に浸っていると、今度は月野が僕の耳元に口を近づけてくる。


「デート、今日でもいい?」


月野の声に今日の予定を頭をフル回転させて考える。特に、部活も入っていなければ月野が誘ってきたわけだから学級委員の仕事もないのだろう。帰りのことを考えて、萌に少しの嘘をつかなければいけないかもしれないけれどデートをすること自体大きな嘘なので致し方ない。


「構わん」


僕が静かに頷くと、月野は目を輝かせた。その姿はとてつもなく美少女だった。白いリボンが揺れて、庇護欲を刺激される。


「じゃあ、3時に駅前で!」


そう言って、月野はくるっと背中を向けると走り去っていった。廊下を行き交う男子たちが目を奪われていく。改めて思う、なんで僕なんだろう…。


「仲良し、だね」


後ろから聞こえた声に肩を波打たせる。その声は…。どこから、見られてた…?


「も、萌...?」


僕の問うような声に萌はすたすたとこちらに近づいてくる。僕はその一挙手一投足に目を奪われて動くことができない。そして、耳元で一言。


「ちゃんとマーキングしておくんだった」


それだけ言って萌は去っていってしまった。全身の熱が顔に集まる。それはどういう意味なんだ...?


「意味わかんねぇ...」


僕を独占したいと思ってくれてるのか?それは、僕のことを好きでいてくれてるってことなのか...?それともからかってる、だけなのか?


♡ ••┈┈┈┈┈┈┈┈•• ♡


「萌、あの今日の帰りなんだけど...」


そこまで言って言い淀む僕に萌はさっとカバンを持った。そして僕を一瞥すると、スタスタと横を通り過ぎていく。僕はその背中を見つめる。


「大丈夫、今日用事あるから。1人でも帰れる」


振り返ってそう言ったあと、萌は帰っていく。呆気なかったな...。朝はあんなに独占するようなこと言ってたのに。


「ほんと、わかんねぇ...」


萌の本心が分からない。僕を想ってくれているのか。どれが本心なのか。


「陽翔くん!じゃあ、後でね!」


そう言って、僕に手を振る月野。僕は心の切り替えが出来ないままに引きつった顔で手を振り返した。とてもじゃないけど心からの笑顔で手を振り返せるような心境じゃなかった。


「お前の本命って、萌ちゃんなのよね?」


そう問うてきたのは律。僕はその問いに静かに頷いた。僕の本命はいつだって萌だ。


でも、萌の心はどこにあるのかいつだって分からない。モヤがかかったように本質が見えない。萌は誰が好きなんだ?


「ふーん、でも明らかに月野ちゃんはお前が好きだよな」


律がジト目で僕を見てくる。そんな目で見られても...。そして第1、僕に対してのあれが本気なのかも分からない。


「あれだって、どうせ遊びだろ?」


僕が言うと、律はため息をついた。これだから鈍感男は...とでも言いたげな表情で。なんだよ、客観的な考えだと思うけど。


「そんなことより、お前もそろそろ本命作れよ」


律はいわゆるワタリドリタイプで、色んな女子をウロウロしている。そんな僕の指摘に律は口を尖らせた。拗ねている小学生みたいだ。


「俺にだって本命くらいいるし」


律の言葉に驚く。と、同時になんだか嬉しくなる。なんだ、律にも真剣に人を好きになる心があったのか。


「じゃ、お互い頑張ろうぜ」


「お前は変な方向に頑張るなよな」


律の言う変な方向とやらは理解しかねるけれど、頷いた。そして僕はカバンを持つと、教室を出た。月野とのデートへ向かうためだ。















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