第5話 寝込みを襲われましたその2
スマホのアラームの音が鳴る。昨日は萌のことを考えたまま、寝てしまったらしい。と、スマホに手を伸ばそうとするとなにかの気配を感じる。
「っ!?」
視線を上に向けると、僕の上で四つん這いになっている水髪の女子がいた。な、なんだ...!?またもや、襲っていいのか??
「萌、念の為聞くけど何をしてる?」
僕の首の横辺りに手を付き、僕をまたぐように僕の腰の横辺りに両膝を着いている萌はいつものクールな表情を崩さない。僕のことをじっと見て、何を考えているのかさえ分からない。けど、僕の理性を試しているのかもしれない。
「陽翔を襲ってる」
返ってきたのは、昨日の朝にも聞いたようなセリフだった。今日はもう制服に着替えているらしく、昨日のように胸元ががばがば見える…なんてことはないけれど。制服姿なところが逆に、エロい。
「なぜ?」
僕の純粋な問いに、萌は首を傾げた。目標なしですか?それで僕の純朴な少年心をそんなにもえぐっているのですか!?
「マーキング…?」
やばい、萌にならマーキングされてもいいという本音が今にも出てきそうだ…。その平然とした顔でそんなこと言わないでくれ…。僕が襲いたくなるから。
「マーキングなんかしなくても…」
そこまで言って、動きを止める。マーキングするってことは、僕を自分のものにしておきたいってこと…?それってつまり、萌は僕のことを…。
「調子乗るな、バカ」
そう言って、僕の上からいなくなる萌。ああ、もう終わりか…。でも、萌が僕を独り占めしたいなんてそんなわけ無いか。
「でもなぁ」
僕は、そう言って部屋から出ていこうとする萌の腕を引き寄せる。その小さな体を両腕でしっかりと抱きしめる。萌の温もりを体全体で感じた。
「な、何...」
萌は珍しく動揺したような声をあげる。いつも動揺させられる側の僕は少し面白がっていた。すると、萌はパッと僕から離れる。
「な、...ば、...バカ!」
僕から離れた萌の顔は耳まで真っ赤に染まっていた。なんだよ、そんなに照れられるとこっちまで恥ずかしくなってくる...。おろおろとした様子の萌に僕まで視線をさ迷わせる。
「な、なんか、ごめん...」
僕が謝ると、萌は僕から視線を逸らす。なにか言いたげな表情の萌に僕はじっと待つことにした。すると僕のそんな様子に気づいたのか萌はぎこちなく口を開いた。
「謝らないで...。イヤだった...ゎヶジャナイ...」
最後の方がよく聞こえなくて首を傾げる。嫌だった...のか?でもその後になにか続いてたような気もするんだけどな...。
「あのさ、萌。僕―」
何を言おうとしていたのか。11年間の思いの塊を伝えようとしていたのか。それとも、今のハグの理由を説明しようとしていたのか。
自分でも分からないままに衝動的に口を開いてしまったけれど。その後、僕の声が続くことはなく。部屋に響いたのは。
『おはよう、起きて。おはよう、起きて。おはよう、起きて。おはよう...』
断続的に続く萌の目覚ましボイスだった...。そうだ、ちゃんとアラーム止めなかったからスヌーズになってたのか...。2回目のアラームは絶対に起きられるように萌の声を繋げて作った目覚ましボイスにしてあるのだ。
「なに、これ」
未だに、萌の声を発し続けているスマホに視線を向ける萌。その目つきは、先程までの動揺を感じさせるものではなくいつもの冷たいものに戻っていた。というか、いつもより冷たい...?
「いやぁ...これは...」
僕は後頭部をかきながら言い訳を探す。が、見つからず...。とにかく急いでアラームを止めた。
「キモイ。とにかくキモイ...。今すぐ変えて、すぐさま変えて。このクソ変態」
ああ...。さっきまでの雰囲気はどこへやら...。全くタイミング悪すぎないか、僕のスマホ!
僕はアラームの設定画面を開く。うーん...。作るのに結構時間かかったし、やっぱ変えなくていいや。
僕は少しばかり悩むとそう決めて、スマホをポケットにしまった。結局、萌が何を言っていたのか僕には聞こえなかったな...。嫌だった、の後に続くのはどんな言葉だったんだろうか。
「待たせた」
僕が駆け寄ると、萌は冷たい視線で迎えてくれる。耳まで真っ赤にしてた萌はどこに行ったんだ...?まあ、冷たくてもいつも通り可愛いけど。
「待ってない」
そう言って萌はすたすたと玄関から出ていってしまう。僕は急いでその背中を追いかけた。その背中に追いつくと、顔を覗き込む。
「さっきのは、待ってない、今来たとこ♡っていう待ち合わせの定番のあれか?」
僕の問いに、萌は冷たさを超えた恐怖を感じさせる視線を送ってきた。え、違うの?てっきりラブリーな優しさ溢れる言葉かと思っちゃったぜ。
「陽翔には待つ価値なんて無いって事」
それだけ言い残して早足で先へ行ってしまう萌。え〜、それはさすがに酷くないか...?でも、なんだかんだ言って待っていてくれる幼なじみの背中をまた追いかけた。
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