清楚系美少女、もといアホな小悪魔

第3話 抱きつかれました

「痛って〜!何すんだよ〜」


チョップされた頭頂部を押さえながら律が唇を尖らせる。そりゃそうだ、萌で変な想像しやがって...!それをしていいのは僕だけなんだぞ!


謎の独占欲で律に怒っていると、パタパタとこちらに駆け寄ってくる人影が見えた。ん?僕たちに向かってくる...?


「やっと来たー!おはよ、陽翔くんっ!」


そう言って、僕の腕を掴む女子。黒髪を白のリボンでハーフアップにした髪型は清楚系を思わせるが言動が全くそうでない。てか、僕もつい1週間くらい前まではおしとやか系清楚キャラだと思ってたんだけど...。


「お、おはよ、月野つきの


彼女とは、今年から同じクラスになった。初めは大人しくて男子ウケしそうな子だと思っていたのだが...。今ではアホ丸出しなアホの子だ。


彼女と関わるようになったきっかけは、僕が学級委員になってしまったから。とは言っても僕は立候補した訳ではなく、じゃんけんで負けただけ。彼女は去年も学級委員をしていたらしく、推薦で出されていた。


その顔合わせ的な会で初めて言葉を交わした。先生やほかの学級会のメンバーの前ではいつも通り清楚キャラの月野だったのだが...。2人になった途端、一変した。


『ねえねえ、陽翔くんって呼んでいい??それとね、陽翔くんのこともっと知りたいからLINE!LINE交換しよ?』


キャラの変わりように驚いたことをよく覚えている。初めは別人かと自分の目を疑ったほどだ。だが、しっかりと月野の声で聞いたのだ。


『あのね...私...陽翔くんの顔どタイプなの!!』


と。なんじゃそりゃ...。堂々と、顔面だけ好きアピールすんな...。


初めは、2人の時だけだったのだが最近は悪化して誰の前でもアホの子丸出しになってきた。今だって、律もいるって言うのに僕に抱きついている。僕は呆れがちにため息を吐いた。


「え、なになに!?月野と陽翔ってそういう関係!?」


律は思った通りの反応をして、教室へ入ろうとする。そんな律の肩をがしっと掴む。こいつのしようとしていることは手に取るようにわかった。


「おい、広めたりしたらぶっ殺すぞ?てか、断じて月野とはそういう関係じゃないから。僕がそういう関係になりたいのは一生涯で萌だけだから!!」


僕が言うと、律はニヤニヤと笑う。ん?僕、今なにか言っちゃいけないこと言っちゃったような...?


「ふーん、萌ちゃんだけなんだぁ?いいこと聞いちゃった〜♪だいたいそうだろうとは思ってたけどやっぱりそうなんだぁ♪」


やばい、月野に懐かれてること以上に知られてはいけないことだった気がする...。僕が自分の発言を後悔していると、腕に感じていた感触が体へと移動した。目線を移すと、月野が僕に抱きついていた。


「い、いやいや!それはなしだろ!!」


僕が肩を掴んで引き離そうとすると、月野は逆に手に力を込めた。え、ええ...?律はいつの間にか、教室に戻っちゃってるし...。てか、あの...その抱きつき方、めちゃめちゃ胸も押しあたってるの気づいてます...?


小柄と呼べる身長にしては、大きめのその胸を僕の体に押し当てている月野。僕はその柔らかい感触に理性が飛びそうになる。い、いやいや、僕がそういうことを考えるのは萌だけですし!


「わかってる?陽翔くん。今の話、私も聞いちゃってたよ?」


そりゃそうでしょうね...。僕は脱力したまま、頷いた。すると、月野は背伸びして僕の耳に顔を近づけてくる。


「私、誰にも話さないから。だから、今度デートしよ?」


へ?耳にかかった吐息が変な幻聴でも聞かせましたか?今のは、僕の聞き間違い...だよな?


「もちろん、神楽さんには内緒で2人っきりでね?」


どうやら聞き間違いじゃなかったみたいだ...。僕と月野がデート?萌ともデートなんてしたことないのに、初デートが月野?


僕が悩んでいると、月野はまた背伸びをする。ん?今度は何する気だ?


「早くうんって言わないと、このままキスしちゃうぞ?」


僕は耐えきれずに月野を突き放した。な、何考えてるんだ!?付き合ってないし!


キスとかありえないだろ!?第一、僕が好きなのは萌だけで...。デートもキスも、絶対に月野とはしないぞ!


「あ、あのな―」


「楽しそうだね」


すっと、僕と月野の間を通り過ぎながら聞こえてきた一言。その声を聞き紛うことが僕にあるはずがない。その声は正真正銘、萌のものだった...。


う、嘘だろ...。月野と、2人っきりの現場を...。こんなにも怪しげな場面を...。


萌に見られた!?絶対、勘違いされたよな今!言葉としては優しいものだったけど絶対その声には脅威というか、圧がかかってたよな!?


「あらあら、ピンチだね?変なこと言われたくなかったら、私とデートして?」


僕はその問いとは言えない半ば脅しのような問いに頷かざるを得ず。そして、今日一つだけわかったのは目の前で微笑むこのハーフアップの美少女の正体がアホの子ではなく。小悪魔だということだけだった。








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