蝋燭

山荷葉――親愛の情、幸せ


ꕤ︎︎ ꕤ︎︎ ꕤ︎︎


 真船は蝋燭を手で弄んだ。


 文披という一人の人の事を考えていた。


 明日は彼の生誕祭でもあり、自分の誕生日でもあった。


――まだ、あなたは透明ですか。


 夜が更けていった。


 一生理解される必要はないし、誰も他人のことなんかわからない、興味もないんだと思っていました。


 真船は心の中で呼びかける。


 今、私には何も分かりません。あなたが消そうとした色は、もしかしたら、誰かが守ろうとした色だったのではないですか。最近、そう思うのです。透明は本当に大人の色かは私には分かりません。

元気ですか。


――元気ですか。


 文披葉は真船と同じ小学校に通っていた。文披は所謂鍵っ子で遅くまで学校の校庭にいたので、同じく鍵っ子の真船とすぐに仲良くなった。親友、ではないけれど、同じ時間を共有し、くだらないことを垂れ流し、時にはなにも言わずに黙りあっている、そんな仲だった。


 当時、真船は知り合いも多く、誰とでも話せる性格も手伝って人気もそこそこにあったと記憶している。もちろん自惚れかもしれないが。対照的に文披は内気であまり外交的ではなかった。真船は彼の唯一の『友達』になった。


 真船の母が仕事を何かのきっかけで辞め、家にいるようになった後、真船は校庭にたむろせず、家に帰るようになった。文披は依然鍵っ子だった。話し相手がいなくなって寂しさがあったのだろう。六年生の時だった。真船は文披月が近所の貧しいおじいさんの家に行って遊んでいることを知った。


「児童館じゃないんだよ。危ない人かもしれないじゃん。校庭で待ってた方が安全だよ」


 真船が責めると文披はいつになく強気で言い返した。


「僕がいくとおじいさんは喜んでくれる。来ないと元気が無くなっちゃうんだ。おじいさんは夜とちがって家で待ってる家族がいないから、僕が行ってあげなくちゃだめなんだ」


「そう。好きにすれば」


 文披は泣きそうな顔をした。その顔をまだ覚えている。


 透明になりたいと泣いていた時も同じ顔だった。


 彼は透明だろうか。

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