初恋
ライラック――思い出、恋の芽生え、初恋
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あっと思った時には彼女はもう視界から消えていた。
半透明の後ろ姿を見たような気がした。気づいたらいつも彼女を探していた。
津野凪が真船夜と初めて会ったのは高校一年の六月頃だったと思う。
真船は津野と正反対の世界を生きていた。彼女は誰とでも親しそうに話すが、決して群れず、必要がない限り黙っていた。まるで自分だけが他の人が求める答えを知っているのに、それ自体に興味が無いように振舞っていた。実際なかったかもしれない。
一人だけ冷めた目で人生を達観しているように見えた。津野には彼女が大人に見えた。
自分が臆病だと気づいたのはその頃だ。ひとりぼっちが怖かった。彼女の行動は不自然に見え、受け入れ難く、違和感があった。冷たい人なんだと思った。それとも心がないのかもしれないと思った。
それだけなら別に接点もなく、それぞれ卒業し、また会うことはなかっただろう。
彼女が一人、透明の涙を流すのを見るまでは。
病院の外、雨の中で泣いていた。声も上げず、真っ直ぐ前だけ見て立っていた。
綺麗だと思った。彼女の袖には花弁が付いていて、他人のための涙だというのは明白だった。涙から強さを感じたのは初めてだった。
目が離せなかった。傘も差し出すことも出来ず、見とれていた。つまり、俗っぽい言葉で言えば、恋に落ちたのだ。
同じ色になりたいと思った。
同じ色なら彼女と同じ世界を見れる。視界に入って涙を拭える。傘をさせる。
ライラックが咲いていた。
いつも君は透明だった。10回目の告白をした時も、困ったような顔をして、飽きたらいつでも言ってくださいと言った。
俺は変われなかった。いつまで経っても、彼女と居ても、臆病なままだった。そうして遅かったが、気づいた。俺は誰にも依存しないことを目標にしていながら彼女に依存している。
時々彼女は言った。友達なんかいらないんですよ。俺は友達にすらなれないまま、依然濁った色を持ち続けていた。
大学は地方の無名の公立へ進んだ。彼女と距離を置こうと思った。その気持ちは恋と同一直線上にあったのかどうかはわからないし、それは一般的に恋人がして許される事だったのかも知らない。でも、愛していた。彼女と、その思想が好きだった。だからこそ近づきたくて離れた。
コンクリートが少ない学び舎は俺を透明にしてくれるような気がした。
俺は次第にぺトリコールを忘れていった。
彼女に近づこうとするほど俺は彼女に連絡をとれなくなった。彼女が自分を好きじゃないことは承知していた。困らせたくはなかった。会話は透明になった。
今でも君のアイコンを眼鏡越しに探している。
偶然を待つ時点で俺は変われていないことに気付くべきだった。
明日はきちんと言おう。
俺はどうしようもなく臆病なんだ。
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