かぼちゃ

「もうすぐ収穫祭ですね」


 仮面の塗装が乾くまでの間、二人はカウンターに向かい合わせてそれぞれ本を読んでいた。


「ええ、それがなにか?」


「ハロウィンを祝うには必要なものがあるじゃないですか」


「死者ですか」


「違いますよ。―かぼちゃです」


 真船は顔を上げる。


「かぼちゃ。……確かにそうですね」


 真船は会話を終えて本に戻ろうとしたが、少年がまだなにか言いたそうだったので本を置いた。


「それがどうかしましたか」


 少年はしばらく躊躇ってから続けた。


「あの、実は、うちにかぼちゃないんですよ」


「ええ、うちにもありません」


 真船は読書に戻った。


「それで僕、店の前にランタン置きたいなって思ってて。かぼちゃが一個あればパンプキンパイも作れるし。でも、うちにはないんですよ」


「それは残念ですね」


「あの、この仮面が乾くまでまだ時間あると思うんです。ええと、その……」


 真船は息を吐き出した。マフラーを首に巻き付け立ち上がる。


「分かりましたよ。行きましょう。早く行かないと店が閉まります」


 少年はぱっと顔を明るくして大きく頷いた。


「僕、大きいバスケット持ってきますね」


 寒い外を黙って歩いた。街頭がぼうと点いた。


 スーパーで大ぶりのかぼちゃを一つだけ買った。少年はバスケットを両手で抱えて、その歳では不自然なくらい自然な支払いをした。


 彼のレジを待つ間、真船は蝋燭を買った。白い普通のものと、数字の形のものを。ちゃちな飾りを真船はずっと好んでいる。別にいいだろう、自分だけ見るんだから。今年もまた歳をとる。


 少年が真船を見つけて小走りでかけて来た。


 蝋燭を紙袋に滑り込ませた。


「おまたせしました。もうすぐ塗装が乾くので、ちょうどいいですね」


 などとにこにこする。


 二人は並んでまた少し暗くなった道を戻った。


 それで今日が終わった。

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