第4話 小学生時代の同級生


 上級生とのけんかに負けた。


 奈霧が加わって人数は同じだったけど、体格は相手の方が大きい。冷静に考えれば、ぼくたちには勝ち目のないけんかだった。地面の上で仰向けになって、ヒリヒリした痛みと負けた事実を受け入れた。


 その一方で、抵抗する姿勢を示したことが効いたのだろう。上級生のにくたらしい顔を見ることはなくなった。


 上級生とのけんかを経て、クラスメイトの奈霧ゆきはと仲良くなった。


 仲良くなったと言っても、やることは競い合いばかりだ。画用紙に筆を走らせて、どちらがより上手く絵を描けるか比べた。


 バッティングセンターでバットを握って、ボールを前に転がせた回数を競った。


 読書感想文を書いては質を比較したし、駆けっこもした。比べられることは何でも比べたと思う。

 

 競争心を燃やした理由は自分でも分からない。それでも毎日が楽しかった。同性の友人と遊ぶよりも時間を忘れた。


 奈霧もそうだったのだろう。教室での終礼が済めば、二人で競うように教室を出た。そんな毎日が、ずっと続くと思っていた。


 ある日。奈霧と二人で遊ぶ日々に変化があった。


「あ、あの……」


 逢魔時おうまどきのオレンジに濡れた砂場にて、おどおどした声に呼び掛けられた。


 ぼくはムッとした。今は奈霧と勝負をしている最中だ。どっちが先に立派な砂城を作れるか、神経をすり減らして手を動かしているんだ。


 言葉を交わす間に抜かれるかもしれない。ぼくじゃなくて、奈霧がこいつの相手をすればいい。そう考えて作業に戻った。


 何分経っても気配は遠ざからない。ずっと近くに立っているのを感じる。


 ちらっと競争相手の様子を見ると、栗色の瞳と目が合った。


 無言。


 されど言いたいことは分かった。普段凛とした表情が、どこか居心地悪そうにしかめられている。


 ぼくも胸の内で、罪悪感じみたものをふつふつと感じている。無視を続けるのもそろそろ限界だ。


 奈霧といっせーのーで、で顔を上げる。


 地面の上に男子と女子が立っていた。たぶん教室で見たことのある二人だ。名前は知らない。覚えてない。


 二人が心細そうな面持ちでぼくたちを見下ろす。


 ぼくは奈霧と同じタイミングで腰を上げる。砂場から靴を出して、ぶっきらぼうに声をぶつける。


「何か用?」

「あの、何してるのかな、って」


 先程も聞いたおどおどした問いかけ。相手を視界の真っ正面に据えると、くせ毛の女子が目を逸らした。その態度にまたムッとする。


「見れば分かるだろ」

「砂のお城を作ってるの」

「ふ、ふーん」

「そう、なんだ」


 驚きがない。感動もない。


 胸の奥がムカムカとした。手を止めて話す時間を作ってやったのに、その態度はぼくたちに失礼じゃないか。競争に水を差されたようで思うところがある。


 砂の城を作るのは手間がかかる。バケツに汲んだ水を使って砂の強度を高めたり、指や枝で慎重に削って装飾を作るなど、やるべきことは山積みだ。


 もう日が暮れる。作業できる時間はあまり残されていない。ぼくは不機嫌を隠さず言い募る。


「何だよ、見世物じゃないんだからあっち行けよ。気が散る」

「その言い方はひどいと思うけど、気が散るっていうのは同感かも」


 名も知らぬ少年少女が、体の前で指をもじもじさせる。二人の間で視線を往復させてみるけど、何かをしゃべる様子はない。


 作業に戻ろうかと思った矢先、男子が何かを決断したように顔を上げる。


「ぼ、ぼくたちも、混ぜてほしいんだけど!」

「混ぜる? お前たちを?」


 こんなおどおどした連中に、一体何ができると言うんだろう。片手で押せば泣き出しそうなくらい頼りないのに。


「何か作れるの?」


 奈霧の言葉に、二人がこくこくと首を縦に振った。


「例えば?」

「お城の装飾、とか」

「へぇ。じゃあわたしのお城にやってみてよ」


 ぼくは思わず目を見張った。


「お、おい。今は競走中だろ?」


 城作りは奈霧と定めた競争のネタだ。第三者を入れると競争じゃなくなるのに、奈霧は大したことでもないと言いたげに飄々ひょうひょうとしている。


「別にいいよ。そろそろ帰らないとママに怒られるし、見るだけ見てみようよ」


 確かに僕も門限が近い。日が落ちればこの辺は真っ暗になる。手元も見えない状態で城を形作るのは無理だ。下手をすれば自分の指で城を突き崩しかねない。


 競争の中止は仕方ない。でも譲れないものがある。


「じゃあ城作りはぼくの勝ちだな」


 胸を張って宣言した。だって奈霧の意思で中断するんだ。ぼくの不戦勝であることは疑いようもない。


 端正な顔がこわばった。


「何で? わたし負けてない」

「自分で競争から降りておいて、負けてないはないだろ」

「お城完成してないもん。勝敗なんてつけられないし」

「でも奈霧の負けだろ」

「負けてないっ!」


 奈霧がうなる。威嚇いかくする子犬のようで聞き分けがない。


 何て往生際の悪いやつなんだ! ぼくも負けじと栗色の瞳をにらんでやる。


「できた!」


 奈霧とにらみ合うこと数分。砂場から声が上がった。


 奈霧の砂城の外装が変わっていた。派手さはないけど細かな装飾がなされている。王族が住んでいそうな気品がある。


 ぼくは自分の城と見比べて下くちびるを噛む。


 明らかにぼくの城が劣っている。負けた気分にさせられた。


「わぁーっ、かっこいいね!」


 奈霧が満面の笑みを浮かべて砂場に駆け寄る。


 装飾された自分の城を眺めたのち、ぼくを見てニヤッと口角を上げる。


「わたしのお城の方がすごい」

「なっ⁉」


 頭の中がメラッとした。


 こんなの納得できない! ぼくは声を張り上げる。


「人の手を借りておいて、今さら勝ち負けもないだろ!」

「でもわたしのお城の方がすごいよ。ね?」


 奈霧が部外者に視線を振る。二つの首が縦に揺れて、奈霧がぼくに意地の悪い笑みを向ける。


「三対一だね」

「は、はぁっ⁉ ずるいぞずるい! お前ら、ぼくの城にも装飾しろ!」

「えー」


 男子が露骨に顔をしかめた。


 女子は乗り気のようだ。おせばいける!


「えーじゃない! やるんだよ!」

「う、うん!」


 女子が移動する。男子もしぶしぶ後を追った。砂場で腰を落とし、素朴そぼくだったぼくの城をそれっぽくいじる。


 そこそこ見栄えのいいものができあがった。ぼくは腰に両手を当てる。


「うん、いい感じだな。さすがぼくの城だ」

「何で伏倉くんが誇らしげにするの?」


 奈霧がじとっとした視線を向けた。ぼくの城の出来に嫉妬しているんだろう。


 やっぱりこの勝負はぼくの勝ちだ。上機嫌で女子に向き直る。


「でかした。ほめてやろう」

「あ、ありがと」


 女子が目を伏せてはにかむ。氷像のごとくコチコチだったクラスメイトはもういない。人間味を取り戻したようで微笑ましい。


「お前ら、名前は?」

「普通聞く方から名乗るものじゃない?」

「わざわざこいつらから近付いてきたんだ。ぼくたちのことは知ってるんだろう?」

「う、うん。伏倉さんに、奈霧さんだよね? わたしたちは――」


 褒められて自信がついたのか、クラスメイトがつらつらと自己紹介する。

 佐郷信之に壬生南。この日から、ぼくと奈霧の時間に二人が加わった。


 ◇


 天井が見えた。


 俺は腹筋に力を入れてベッドから上体を起こす。


 スリッパに足を挿し入れて、窓を覆い隠す垂れ幕を摘まむ。


 腕を軽く振るった。シャーッと軽快な音が鳴り響いて、薄暗い室内に日光が差し込む。


 今日は土曜日。課された宿題の量は多くない。

 

 東京請希高等学校では、勉強しろと連呼する教師はいない。宿題さえ終わらせれば、やりたい放題な休日を謳歌できる。校則で強制されるのは、制服を着用して学び舎に踏み入ることくらいだ。


 休日にどこで何をしようが自己責任。全て自由の名のもとに許される。


 その自由を存分に謳歌する生徒がいたら、俺はある意味尊敬する。自由はフグに似ている。美味い美味いと調子に乗れば、積み重なった毒で破滅する。


 教師は理解が遅れた生徒の面倒を見ない。分からなければ各自聞きに来いのスタンスだ。


 教務室に壁はない。質問しやすいように解放されているけど、それは他の生徒も同じだ。時間帯によっては生徒の列ができる。漠然と『分からない』では、時間節約の意図で教師に突き返される。事前に分からない点をあぶり出しておかなければならない。


 俺は朝食を胃に詰め込んで、勉強机に向き直る。教科書とノートを広げて復習を終え、教科書のページをめくって予習をする。


 そのタイミングでスマートフォンがアラームを鳴り響かせた。俺は勉強を切り上げてチェアから腰を上げる。


 ハンガーラックからジャケットを取ってシャツの上に着込む。ポーチを握って玄関に差し掛かり、写真立てに視線を向ける。


 庭を背景にホースを持つ女性が、木製枠の中で笑顔を浮かべている。無機質なマンションの一室じゃない、どこか別の場所を彷彿ほうふつとさせる景観だ。


「行ってきます」


 玄関に微笑みを残してドアノブをひねる。体を休日の外気に晒して、白いもわもわが点在する空を仰ぐ。


 背後でオートロックの音を耳にして、エレベーターへの道のりを歩く。慣性の洗礼を受けてエントランスを突っ切り、外に出て街の景観に混ざる。


 建物や談笑する人影を後方へ流し、小さなビルに立ち入って案内板を確認する。


 ファミレスのドアを開ける。


 鈴の音に歓迎された。洒落た店内を見渡してみるけど、待ち合わせている二人の姿は見られない。友人と待ち合わせをしているむねを店員に伝えて、四人用テーブルに歩み寄る。


 隅の椅子に腰を落としてスマートフォンを取り出した。ネットサーフィンをしながら会話の内容を考える。


 昔を懐かしもうなんて考えてはいない。佐郷と壬生が余計なことを言いふらさないように口止めをする。このファミレスに足を運んだ理由はそれだけだ。


 待ち合わせ時刻から二十分後。鈴の音に鼓膜を刺激されて顔を上げる。


 入り口に私服姿の男女がいた。髪を横分けにした少年とくせ毛の少女。二人が俺を見て手を振る。


「その服かっこいいね! もしかして私を意識してくれたの⁉」


 壬生が前のめりで距離を詰めてきた。俺はとっさに背筋を反らす。


 何という馴れ馴れしさ。まるで親友に接する態度だ。俺が日を改めた理由を全く理解していない。


 俺達が雑談を交わそうと思えば、自然と昔の話になる。俺の過去は忌むべき記憶の集合体だ。部外者に聞かせる内容じゃない。


 昼休みの中庭には芳樹がいた。華の高校生活に挑まんとする新芽だ。腐り落ちた俺達が関わっても芳樹を不幸にする。


 俺はそう考えて、二人と土曜日に会う約束を取り付けた。わざわざ遠いファミレスを指定して、知り合いに出くわす可能性を潰して今日を迎えた。


 彼らの第一声が待ち合わせに遅れたことへの謝罪じゃない辺り、日を改めて正解だったようだ。これを機にしっかり口止めしておこう。


 佐郷が正面のチェアに座る。


 壬生も続くかと思いきや、佐郷の横を通過した。テーブルと擦れ違って、何故か俺の隣に腰掛けた。


 俺はそっと腰を浮かして距離を取る。


「ねぇ伏倉、聞いてる?」


 問いかけが聞こえていないと思ったのか、壬生が声を張り上げた。


 俺は声の大きさに顔をしかめて、口元に人差し指を当てる。


「静かにしろ、ここは店内だぞ。それと伏倉の姓は隠している。以降は市ヶ谷姓で呼ぶことを徹底してくれ」


 二人が呆けたように固まる。


 俺は念を押して、二つの首を縦に振らせた。


「ちなみに、名字を隠してる理由を聞いていい?」

「小学校であんなことがあったんだ。理由は言わなくても分かるだろう?」


 声が刺々しくなった。視界内で二つの口がつぐまれる。


 俺は小学校でいじめられた。


 発端は奈霧との仲違いだ。不特定多数の同級生に物を隠され、机には落書きをされ、仲間外れがエスカレートした果てに殴られ蹴られた。


 喧嘩の腕には自信があったけど、数十という数の前には個の力なんて無力だった。俺は居場所を失って不登校になり、逃げるように転校した。


 佐郷や壬生も同じ学校にいた。いじめを止めようと動いてはくれなかった一方で、積極的に加担しようともしなかった。


 多少は殴られたし蹴られたけど、一時期は一緒に遊んだ仲だ。思い出が邪魔をして、素直に憎むことができずにいる。


「ねーねー伏倉。RINEやってる? 交換しようよ!」


 壬生にスマートフォンをかざされて、俺は目をしばたかせる。


 知り合いとコミュニケーションアプリを使って意思疎通する。周囲がそれをステータスとしていることは知っている。


 だけどそれを今言うか? 俺は重い話をしていたはずだ。話しの流れをねじまげて連絡先を交換しようよって、この女の肝っ玉は鋼鉄でできているんだろうか。


 あるいは鋼鉄製だから、過去を全部吹き散らしてグイグイこれるのか。小学生時代は人見知りする印象だったのに、人は変わるものだ。


 いや、あるいは変わって当然なのかもしれない。


 俺だってもう高校生だ。あの頃とは、外見や中身もがらりと変わった。壬生の人見知りが改善されていても不思議はない。


 壬生に押し切られて、俺はスマートフォンの画面をタップした。アプリの入手法が分からず、壬生に端末を渡してアプリを入れてもらう。


 細い指先が画面をタップし、俺のスマートフォンを差し出す。一応礼を告げてスマートフォンを受け取り、自分の手に戻ったそれを眺める。


 見知った藍色の端末が、同型なだけの何かに見えた。


「これ、俺のスマホだよな?」

「当たり前じゃん。何言ってんの? あ、佐郷の連絡先も入れておいたからね」

「お、マジか。サンキュー」


 佐郷が口角を上げた。


 何故だろう、全く嬉しくない。俺はスマートフォンをポケットに突っ込み、気を取り直して二人に向き直る。


「せっかくの再会だ。楽しいことを話そう……と言いたいところだけど、その前に聞いておきたいことがある。俺をいじめたクラスメイトは、あれからどうなった?」


 二人の眉間にしわが寄った。


「それマジで聞くの?」

「ああ」


 地獄はもぬけの殻だ。全ての悪魔は地上にいる。かのシェイクスピアはそんな名言を残している。


 かつて俺が在籍していた小学校は、まさしく悪魔の幼体がうごめ万魔殿ばんまでんだった。


 俺を不幸のどん底に突き落とした悪魔どもが、笑みを浮かべて学び舎を卒業した。当時の俺はそれを想像して、悔し涙で枕を濡らしたものだ。


 トラウマは軽くなったものの、今も時々心がうずく。


 自分から悪魔とコンタクトを取る勇気はない。連中があの後どんなふうに過ごしたのか、それを知るには二人に問うしかない。


 佐郷と壬生が顔を見合わせる。


「元通りになった、とはいかなかったよな」

「そだね。今度は別の人がいじめられてさ、学校で問題になったんだよ」

「俺が消えたのに、いじめは収まらなかったのか?」

「ああ。きっと忘れられなかったんだろうな」

「何を?」

「いじめることの味をさ。お前を殴ったり蹴ったりするの楽しかったんだろ、きっと」


 佐郷がおどけて両腕を上げた。


 所詮他人事と言わんばかりの笑みを見せ付けられて、胸の奥が焦がされたようにチリチリする。


 俺は静かに拳を握り締めて、噴き上がる激情を握り潰す。


 当時のことはトラウマだ。不登校になってしばらくの間は夜泣きが止まらなかった。泣き止もうと思っても、身の震えが止まらないほど心をズタズタにされた。高校生になってもたまに夢に見る。


 友人。それも同じ学校に通っていた当事者が、あの時のことを冗談めかして話している。胃に棘が刺さった気分だ。不快を通り越して業腹極まる。


「もしかして、伏倉怒ってる?」

「そう見えるか?」


 視線を振った先で壬生が俯いた。


 佐郷が息を呑んで弁解する。


「そう睨むなよ! それ以外に考えられる理由はないだろ? みんなわらってたし、そうとしか思えなかったんだよ! な?」


 佐郷の求めに、壬生がしぶしぶ首肯する。


「……君達も、そうだったのか?」


 声が震えた。


 憤怒か、悲しみか、それとも寂寥感か。問い掛けを紡いだ俺自身にも分からない。


 俺の言葉がどう聞こえたのか、二つの頭がブンブンとかぶりを振る。


「いやいやいや違うって! 俺らは目を付けられないように必死だっただけだって!」

「そうだよ! 私も本当は伏倉を助けたかったよ! 本当だよ!」

「その呼び方はやめろと言ったぞ」


 二人が体を縮める。


「お、落ち着けよ。顔怖いぞ?」

「そうだよ、笑って? 昔は笑顔可愛いかったじゃん」


 肩を落としての上目遣い。叱られた子供を想起させる反応だ。無意識に表情を険しくしていたらしい。


 俺は窓ガラスに向き直る。店内の明かりに反射する顔を表情筋で調整し、笑みを貼り付けて二人に向き直る。


「悪かった、こんな話はもうやめよう。二人は何かたしなんでいるか? 俺は中学の三年間で空手を習ったんだ。通信講座だけどな」


 対人恐怖症が和らいでからも、俺は校舎に足を運ぶことはできなかった。


 玄関のドア前に立つと動悸がして息苦しくなる。そんな状態だった俺にとって、パソコンの画面越しにやり取りできる通信講座はありがたいものだった。


「空手ねぇ。ああ、またいじめられないようにってことか」


 思わず舌打ちしそうになった。壬生よりは頭が良いイメージを持っていたけど、無神経さで言えば佐郷が抜きん出ているようだ。


 壬生が肘で佐郷の脇腹を突く。


「もう黙ってなよあんた。市ヶ谷は高校でも空手部に入ったの?」

「いや、放送部に入った」

「へぇ」


 壬生の肘杖がテーブルの天板を鳴らす。見るからに興味がなさそうだ。


 俺はめげずに言葉を紡いだ。


 放送部の意外とハードな活動内容。二人の放課後の過ごし方。当たり障りのない会話を探って、場の流れを陽気な方向にもっていく。


 不思議だ。どうして俺はここにいるんだろう。


 せっかくの休日、自宅でやりたいことをやっていればよかったんだ。そんなにコーヒーが飲みたかったのか? お金を払ってまで嫌な思いをしたかったのか? 自分で自分が理解不能だ。


 とにかくこの場から逃げ出したい。


 釈然しゃくぜんとしない感情を抱えたまま、俺は速やかにコンパクトな同窓会を終わらせた。

 

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