異世界転生したらスキルが爆発オチでした

うすしお

異世界転生したらスキルが爆発オチでした

 何もかもが爆ぜた。


 体に備わっている五感が、今の状況についていってくれなかった。だけれど、多分俺は異世界に転生した。


 だって、今俺の眼に降り注いでいるのは木漏れ日。さっきまで俺のいた場所は駅のホーム。近くに小川でも流れているのだろうか。涼しくて柔らかい草の生えた地面に横たわった俺は、ちょっとだけ冷静になって、状況を整理する。


 俺は、爆死したのか……?


 なぜだろう、なんの感情もわかない。爆死した後って、こんな感じなのか……。ソシャゲで爆死した時の虚無感とはものすごい差だ。


 爆破テロでもあったんだろうか……。まあでも、異世界転生した俺にとってはどうでもいいことだ。がんばれ日本の警察。


 ってことは……。もう俺は激務の日々から解放されたのかっ⁉


 俺は勢いよく体を起こした。


「そうだ! 異世界転生したなら何かスキルとかあるんじゃねえの? そのことを解説してくれるメタ的なキャラとかいるのでは?」


「お呼びしましたでしょうか」


 すると、俺の頭の中にAIの自動音声みたいな無機質な女性の声が聞こえた。きたきたきたきた! こういうのこういうの!


「俺のスキルを教えてくれ!」


 スキルとかがある世界なのか。てかそもそも声の主は誰なのか。普通そう言う状況把握が先では? とは思うが、俺はいつの間にかスキルを知りたがっていた。俺に何か力が備わっているような、そんな感覚を第六感が告げていたのだ。


 爆死する前の俺はなんのとりえもなかったからな……。舞い上がる気持ちを抑えられない俺を愚かだとは思わないでくれ。


 そしてスキル解説ちゃん(今俺が命名)が言ったのだ。




「あなたのスキルは、爆発オチです」




「は……?」


 誰もがこんな反応をするだろう。爆発スキルなら分かるぞ。強そうだし。画面に表示されてる敵全員にダメージ与えられそうだし。俺はイ〇ナズン結構好きだし。


「もっかい訊くぞ。俺のスキ……」

「爆発オチです」


 そんなWeb小説特有の空白開けを無視してまで間髪入れずに答えるなっ‼


「は、それ、どんなスキルだよ……」


「あなたの身の回りの状況が混乱した場合、三秒間のカウントダウンが与えられ、自爆します」


「はっ⁉」


 そんなどストレートに言うな⁉ 完全に害悪スキルじゃねえか⁉


「楽しい異世界ライフを送ってくださいね」


「おい、異世界解説はそれだけか! 行くな! スキル解説ちゃーん!」


 俺は涙目になりながら叫んだ。その瞬間だった。


「きゃーっ! 誰か助けてええええええええ!」


 森の奥から女性の叫び声が聞こえてきたのだ。


「え、なんだよ⁉」


 俺は慌てて立ち上がる。そして周囲を見回す。ざわざわという足音は俺の後ろから聞こえてきた。


「きゃああああああああ‼」


「うっふあっ!」


 その瞬間に感じたのは、


 豊胸。


 俺は後ろに倒れ、女性に押し倒される。柔らかい感触を顔面が感じ、女性の胸は離れていく。


「あ、あの、大丈夫ですか?」


「は、はいっ!」


 心配そうな顔が、俺を見ている。うっとりとするほどに輝いた紺色の瞳、まぶしいほどに風に靡く金色の長髪。子供とも大人ともつかない女性に、俺は押し倒されていた。


 やっべ超好み。


 いやでも待てよ……。確か状況が混乱すると自爆するってスキル解説ちゃん言ってたな。


「あ、っす、すみません!」


 俺を押し倒した女性は即座に離れ、お姉さん座りのまま茂みの前まで遠ざかる。俺は即座に正座し、混乱しないためにも状況を整理することにした。


「あ、あの、一体あなたは……」


「私は、ゴーダ・パルミジャーノ・ブルーチェダー・ゴルゴンゾーラです。一族の王女なのですが、今私の国は壊滅状態にあり、敵国の兵に追われているのです!」


 ちょっと待って情報量多い! 何そのチーズみたいな適当な名前! って、一族の王⁉ 敵国の兵に追われてる⁉ じゃあ今の俺ってやばい状況じゃね?


 い、いや慌てるな! なんとか打開策を探さねば!


「あ、お兄ちゃんまたこんなところで昼寝して!」


 おいおい次は何だ!


 振り返るとそこには、金髪サイドテールのいかにも妹キャラっぽい女がいたのだ。


 そいつは腰に両手を当て、俺を見下しながら怪訝な目を向けている。


「おい兄ちゃん! その女誰よ! ていうか、今日からドラゴン狩りのクエストでしょ⁉ なんでこんなとこでぼーっとしてんの⁉」


「いやいやいや今度は何⁉」


 俺は立ち上がりながら川の方へと後ずさりをする。


「あー、またお兄ちゃん変な女捕まえたんでしょ!」


 ジト目で俺は質問される。責め立てられているこの状況は苦ではないが、この場を混乱させるわけにはいかない!


「えーっとまず、この状況を整理しましょ? 今俺はお前の兄で、あなた様……ゴルゴンゾーラ様でしたっけ?」


「ゴルゴンゾーラはやめてください。私はその響きは好きではありません!」


 ゴルゴンゾーラ様は涙目で俺に叫ぶ。じゃあなんでそう言って自己紹介したんだよ! 変な矛盾生んで混乱させるな!


「とりあえずブルーチェダーさんは一族の王女で……」


「はあ? あんたが私の兄ちゃんなのは当たり前なんですけど!」


 そしたらすぐに妹ポジが口を突っ込んでいく。


 ああ、やばい、混乱してきた……。


「あ、ああもう! うるさああああああああああああい!」


 俺はそう叫んだ。そして……。


「おい、叫び声が聞こえたぞ!」

「王女はそこか!」

「あいつの首さえとれば!」


 やばいってまた誰か来るって……。しかも結構大人数だし……。


「は? なんなのよこの状況! ちょっと兄ちゃん説明しなさいよ!」


「ああ、見つかってしまいます……。誰か助けてくださあい……」


 妹ポジはうるさくわめく。チェダーチーズ様は諦めたようにうわんうわんと泣き始める。


 そして――。


 3。


「ああ、やばいやばいやばいやばい!」


 だめだ! スキルが発動してもうた!


 2。


 ああ、もうダメや。しぬんだ……。


 1。


 ああもうあかんやつやこれ。はい終わりでーす。


 0。


 こういう時に叫ぶ言葉は決まっている。


「爆発オチなんてサイテえええええええええええええええええっ‼」


 何もかもが爆ぜた。


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