辛い現実

 私は倒木飛鳥たおれぎあすか。高校一年生。ひどい近視があり、眼鏡をかけている。眼鏡のフレームは父親からのお古で、縁がかなり太いタイプで正直言っておしゃれじゃない。

 本当はコンタクトにしたいけど、家は貧乏だし…我慢している。

 趣味はイラスト制作。特にデッサンが大好き。

 昼休み、男子生徒どもの笑い声が教室中に響き渡る。

 私の机は漁られ、家から間違って持ってきてしまったヌードデッサン帳を男子生徒二人組に取られてしまった。

 まただ…

 今日もまた嫌がらせが始まった。

 私の机はこの男子生徒たちに毎日のように漁られる。漁られるだけならまだしも、漁った後に机から出したものがどんなものなのかをクラスメイト達の前で、大声で叫ばれもする。私の読んでいる朝読書の本や成績表、後、筆箱の中身まで取り出されたこともあった。

 まあ、今日は運悪く、デッサン帳なんか持ってきたものだから、彼らの格好の餌食になった。

「がははは……うわあ やらしー。裸が描いてあるぞ~」

「キモッ!。がははは」

「おーい!。無視すんな、あははははははははははははは」


 …こんな現実なくなればいいのに。

 私はいつものように、何も抵抗することもできず俯く。

 周りの人は誰も助けてくれない。

 皆見て見ぬふりだ。

 中には一緒に笑っている奴もいる。

「おーーーーーい!!」

「頭大丈夫?」

 男子生徒たちが私の許に近づいてきた。私が彼らの言葉を無視していたからだろう。

 辛い現実に心が打ちひしがれて、意図せず…私の目から大粒の涙がこぼれ始めた。

 目に大粒の涙を浮かべ始めても、私を助けてくれるクラスメイトは、やはりいない。

「おい。どうした?泣いてんのか?こんなぐらいで(笑)」

 私がどれだけ傷ついても、涙を流してさえいても、男子生徒たちは言葉の弾丸を打ち続ける。

 しかも、彼らはどちらも目尻を大きく下げて真底うれしそうな笑みを顔に浮かべていた。

 ひどい…

 ひどすぎる…

 人の心が無いのかこの人たちには。

 涙が止め処なく滝のように溢れ続ける。

 眼鏡を外し、私は涙を制服の袖で拭き始めた。

 そのとき、私に名案が浮かんだ。


〝パキッ〟


 ひどく小さな音が教室に響いた。

 男子生徒の一人が動揺しながら大声で叫び始めた。

「なっ!何やってんだお前。頭おかしいぞ!病院いけ!」

 彼が動揺するのも無理はない。私は眼鏡のブリッジの部分を思いっきりへし曲げ、真っ二つに割ったのだから。

 もう一人の男子生徒が申し訳なさそうな表情を浮かべつつ、小声でボソッと呟いた。

「ちょっとからかっただけなのに……」


 


 眼鏡から目を開放したことで私の視る世界の輪郭が薄まり始めた。


 私をいじめる男子生徒たちも。


 見て見ぬふりをするだけのクラスメイトも。


 学校という息が詰まる閉鎖空間も。


 全てが。


 全ての醜い世界が。

 

 霧の中の世界のようにぼやけていく。

 

 私の心の中につと、こんな考えが浮かんだ。


 ―――辛い現実なんて、最初から見なければ良かったんだ。

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