変な教室

 僕の通っている小学校はとにかく変だ。

 入学式の時に身体測定、健康診断、その他のテストがあった。

 そして、その結果を受けてクラス分けをした。


 僕は、組。

 5つの紙の先に匂いのついた液があって、それを嗅いでどんな匂いかを検査している人に言うというテストの結果から、僕が鼻が良いことがわかったから、この組に入ったのだ。


 僕の幼稚園からの親友の山川君は、組に入っている。

 黒い映像の中で、現れたかと思うとすごく早く横切って画面の外に通り過ぎるものが、なんなのかを言うテストの結果が良かったから入ったらしい。僕は、1つもわからなかった…


 他には、組、組、組があるのだ。

 味組は4種類の紙を舐めてどんな味がするのか話すテストの結果が良い人、肌組は筆で触った時の頭の電波を見るテストの結果が良い人、耳組はなんか耳に音の鳴る機械を当てて、音が聞こえたらボタンを押すテストとか高い耳がキーンってなる音が聞こえたらボタンを押すテストとか後、なんか耳の後ろから震える音を聞くテスト、それらの結果が良い人が選ばれるのだ。


 本当変な学校である。

 6年間クラスは変わらず、ごく一般的な授業に加えて、組の名前に合わせた能力の強化授業もある。鼻組は紙に付けた匂いを嗅ぎ分ける授業、目組は動画内で通った車などの物を数える授業、味組は様々な国の料理を食べる授業、肌組は服や動物の毛皮、虫の標本、スライムなど身の回りにある様々な物を目隠しをして触覚だけで見極める授業、耳組は人の声や動物の声の高さを聞き分けたり、絶対音感を鍛える授業などなどある。これは一例だ。


 僕は鼻組だったので、様々な匂いを嗅いだ。人の汗の匂いや、にんにくの匂い、鮒寿司の匂いはとても臭かったな。桃の匂いとか、香水の匂いとかは心地よかった。最初は、なんでこんなことをするんだろうと思ってたけど、習慣化していってどんどん何も気にしなくなって、普通に日課として行っていた。


 僕は今、6年生で明日は卒業式だ。

 結局、僕らが特定の能力を鍛えられた意味はわからなかったけど、それ以外は至って普通の学校だったし、良い思い出もたくさんあった。

 なんだか思い出すと、感慨深くなってしまった。


 卒業式当日になった。

 在校生に別れの挨拶をして『旅立ちの日に』を歌い、体育館を後にし、自分たちの教室に戻る。


 クラスメイト達と6年間の思い出について話していると、教室のドアが開く音がした。先生だった。


 教室にいる一同が騒然とした。


 先生はガスマスクをつけていたのだ。

 手元にはホースのようなものがあり、背中にはガスボンベのようなものがある。

 先生はホースから白い煙を出しながら、こう言った。

「普通の人間から旅立ちましょう」

 ガスマスクに顔が隠れてはいるが僕は先生が笑っているように見えた。

 そう思った瞬間目の前が真っ暗になった。


 しばらく、時間が経って…

 目が覚めた。

 見慣れたピカピカのフローリングの床、ここは体育館か…

 周りには、同じ組のクラスメイトたちが居たが、叫び声が響いていた。


 その時、僕はあることに気付いた。

 何も匂いを感じなくなっている…

 そして、鼻の辺りを触っても、空洞があるだけで…

 鼻そのものが消えていた。

 その現象はクラスメイトたちにも共通して起きていた。


 周りを見ると、組の生徒だけでなく、組、組、組、組の生徒も居た。

 目組の生徒は目をくりぬかれた様子で目が合ったはずの部分が窪んでいた。

 味組の生徒の中には口を開けて見合っている生徒がたくさんいて、舌が無くなっているのが見えた。

 耳組の生徒は耳が二つともなくなっており、耳の付いていた辺りに空洞ができていた。

 …肌組の生徒だけは何も変わっていなかった。


 5つの組の担任の先生たちが体育館のステージに立っていた。

 校長がテクテク歩いてきて先生たちの前に立った。

「皆さん6年間ありがとうございました。この学校は実は、人間を超えた人間を開発するための学校だったのです。皆さんが鍛えてきたパーツは神経線維ごと取り除きました…そして…」

 何か気になったのか、校長の言葉を遮り、1人の生徒が怯えながらも声を出す。

「校長先生…僕たちは何も取られていないんですが…」

「人の話を遮らないでください。今から話すところだったんですよ。あなたたち肌組は皆のパーツをくっつける対象なんです」

「えっ」

 肌組の生徒たち一同は、一様に驚いて逃げ出そうとしたが、体育館の入り口にはガスマスクを付けた学校の先生たちが立っており、生徒たちは皆ガスのようなもので眠らされた。そして、どこかへ運ばれていった。


 それを見ていると、体育館のステージの上からいつの間にかガスマスクを付けていた先生たちが持っていたホースから肌組以外の僕たちにもガスが降り注いだ。


 意識が途絶えた。


 目が覚めると、僕、いや僕たちは教室に戻っていた。

 顔の真ん中辺りを触ると鼻があった。

 まさか、夢だったのか?

 そう思い、確認のためにも筆箱に付いた鏡で顔を写すと僕は驚愕した。

 僕の鼻は別人のものになっていたのだった。

 他のクラスメイトもそうであったらしく、皆、阿鼻叫喚をあげている。


 先生は僕たちに鼻のことは1つも言わず、「卒業おめでとう!」と言って僕たちは帰ることになった。なんて最悪な卒業式だ。


 辺りは暗くなっていた。

 やはり、というか、肌組の教室の方に他の組の生徒たちが集まり始めた。

 しかし、肌組の教室はもぬけの殻で。

 誰もいなかった。

 身体の一部に違和感を感じながらも、僕以外の他の生徒たちは帰っていった。僕は興味本位で体育館に行くことにした。何かが行われている感じがしたのだ。


 体育館の入り口からこっそりと中を覗き込むと、手術台のようなものがたくさんあり、上には誰も横たわってはいなかった。何か1つの集団がステージの前に居た。小声で何か呟いている。その声は大きくなってきた。僕が近づいたのではなく、その集団が近づいてきたのだ。

「も…して…もどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどしてもどして」


 その声の主は肌組の生徒たちだった。皆一同目には大粒な涙を浮かべている。そして、先頭に立っていたのは…

 

 僕の鼻と山川君の目を持った生徒だった。


 僕はあまりの恐怖にその場を一目散に立ち去った。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る