第三十二話 主の器
今日も朝から
――
壬生邸とは、壬生大路にある
晴明は
しかし、報される内容に
震える手を
「それは……、一体どういうことか、説明しろ」
彼の前には十二天将・
彼らが報せてきたのは、青龍が消え、敵に捕まっているかも知れないということだった。
青龍は十二天将の中で、もっとも扱いづらい男だった。
その青龍が消えた。
以前、玄武から青龍が異界にいないとは聞いていたが、その時はいつもように勝手に
まさか、何者かの
ただそれを、今になって報されたことだ。その何者かは、晴明の背後まで手を伸ばしてきていた。それに気づかず、さらには――。
騰蛇が重い口を開く。
『これは俺たちが、解決しなければならないと思ったのだ』
騰蛇の言葉に、晴明は唇を噛む。
天将たちは晴明に報せることなく動こうとした。天将の問題は、天将が解決する――、そう捉えかねない言動に
(
ならば、自分はなんのだ。十二天将にとって、安倍晴明という男は。
続いて玄武が割って入る。
『それにだ、あの青龍だぞ? 敵に
『彼を捕まえてどうしようというのよ……!』
そう言ったのは太陰だ。
『味方にしようとおもったんじゃないか?』
『はぁ!? あり得ないわ! 十二天将をなんだと思っているわけ!?』
『俺に怒るなよ……』
太陰の
晴明の怒りは、ついに限界を超えた。
「十二天将、私はお前たちのなんだ? ただの陰陽師か?
『晴明……』
わかっているのだ。これは八つ当たりなのだと。
気づけなかったのは己の未熟さゆえ。
彼らに主の器ではないと、思われても当然なのだ。
「みんな、去れ。少し頭を冷やす」
何かを言いかけた太陰を騰蛇が制し、彼らは異界に戻っていった。
彼らが消えて、晴明は乱暴に髪を掻き上げる。
忙しさに感け、周りを見ていなかった。
――だからお前は、未熟者なのだ。
青龍がいれば、そういうだろう。
「そう、その通りだ。私は中身も半人前なら、十二天将を使役する者としても半人前だ」
彼は
怒りが収まると、己が
だが、このままでは終われない。青龍にどのように思われようと、彼はわが式神。必ず取り戻す。
晴明は六壬式盤に刻まれる彼の名を指で撫でながら、そう決意したのだった。
◆
『晴明――、大丈夫かしら?』
『これしきのことで落ち込むのなら、それこそ奴は主の器を問われる。放っておけ』
騰蛇の言葉に、太陰は反論しかけた口を閉じた。
式神といえど十二天将は神に連なる者、人に自ら力を貸すことも、助けることはできない。求められてはじめて力を貸す。
『でも、晴明に告げなかったのは、
『まさか、あんなに怒るなんてなぁ……』
玄武が
『当然よ。私たちは十二天将である前に、晴明の式神なのよ? その式神が自分の知らないところで大変な目に
十二天将の誇りゆえに、
晴明の元に報せに行く前、彼らは天空にこう言われた。
『我ら十二天将、安倍晴明の式神となる――、そう決めたはず』
老人の姿をした天空は、大岩に座したまま十人の天将を見据えていた。
十二天将を
『天空の
『いまさら、彼が
『翁よ、我が言いたいのはそんなことではない。あの男が人を助け、国を
『それはこれからの、あの男次第。あの時、皆は納得したのではないのか? たとえどうであれ――、今回のことはこちら側にも非がある』
あの時――、
国のため民のため、彼らを守る力を貸してほしい――、そう
最終的に決断したのは天空である。
晴明の成長を見届けつつ、力を貸すとしたその決断に、十人は従ったのだ。
『これから先は、天空の翁が言われるようにあの男の判断次第だろう。
騰蛇の言葉に、太陰は眉を寄せる。
『晴明が、負けるかも知れないっていうこと……?』
『可能性としては、ないことではない。我らの力さえ封じる力となると――』
『あなたってどうして、そう暗いほうへ暗いほうへと言葉を持って行きたがるのかしらね。そういうところ、青龍にそっくり』
『あいつと一緒にするな』
騰蛇は、なぜか青龍に対抗心を抱いているらしい。
十二天将を
◆◆◆
その夜――、
(どうしてここだけ……)
鬼の間は
いや――。
「え……」
そこに、あるべきものがなかった。
鬼の間の壁に描かれている、鬼を
見間違いか、それとも現実か、少将は足早にそこから駆けた。
「一大事でございます……!」
血相を変えて戻ってきた彼に、陽明門にて
◆
「鬼の間の壁から、鬼が消えた――?」
朝から騒がしくやって来た男に舌打ちをし、晴明は
ちょうど
「なにせ夜だ。見間違いじゃないのかと、俺も言ったさ」
冬真は腕を組むと、渋面で
清涼殿・鬼の間の壁には平安王都遷都時に、
その鬼だけが、綺麗に消えていたと冬真はいう。
晴明は
なぜ、こうも次々と事件が起きるのか。
「朝からお前が来たということは、
「ああ。帝の
勅命となると、行かない訳にはいかない。
関白・藤原頼房や
晴明は着ていた狩衣を脱ぐと、
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