第三十一話 壬生邸の輝夜姫
「……っ」
白煙のように
それでも彼は耐えた。そして自分を捕らえた上に
十二天将は神に連なる者、従わせようとしている男――
――ならば青龍、安倍晴明は十二天将を従えるのに
勘岦斉の問いに、青龍は唇を噛む。
彼はこれまで、口では晴明を
おそらくあの問いは、青龍に向けられたものであっても、晴明に対しての問いなのだろう。ならば青龍が
――叢雲勘岦斉、この俺を
青龍は霧の檻を、怒りを込めて
◆
――まったくこんな日に、出てこなくていいものを……。
普段は闇に
「お願いでございます……っ。中には
晴明の元に助けを
「匂陳、鬼を牛車から引き剥がせ!」
晴明の指示を受けた天将・匂陳が、
『ギャア!!』
まるで地獄絵図の
この鬼たちの場合は、散々喰い散らかしては他を襲う――、そんな
「オン――」
両手で
「ノウマクサマンダバザラダン、センダマカロシャダソワタヤ、ウンタラタカンマン」
青い光が
『ギィ……、アゥゥゥゥ……!』
晴明の
「
光が
霊符を届けに行くだけが、じつにとんでもない寄り道である。
しかしもだ。気がつけば助けを求めてきた舎人の青年はおろか、十六夜姫を乗せているであろう牛車は立ち去った後だ。
――しかし、十六夜姫とは……、な。
十六夜は、十六日の夜を意味する名前だ。
◆◆◆
観月の宴は、冬馬にとってはやはり、退屈なものだったらしい。
「まだこれからだというのに、えらい疲れているな? 冬真」
苦笑する晴明を
「愛想笑いを浮かべているだけでも
「めでたい話だと思うが?」
冬真は晴明と同じ二十五歳、父親である右大臣・藤原有朋でさえ十七歳の時には
ましてや冬真は、
「こっちにその気がないのにか?
そう言って苦笑する冬真に、晴明はやれやれと肩を落とす。
「右大臣さまが、気の毒になってきたよ……」
つくづく、名門貴族の家に生まれなくて良かったと思う晴明である。
「それより晴明、
冬真の言葉に、晴明は
「輝夜姫……?」
「宴で話題にのぼってな。
壬生大路といえば昨夜、晴明が鬼を退治した場所である。
聞けばかの姫は、満月を見ては
あの日――、
「――姫、そろそろお休みになりませ」
女房らしき声に、かの姫はゆっくりと中へ消えたという。
あれはまさに、輝夜姫――、彼はそう思ったらしい。
しかし彼が見た姫の姿は胸から下のみ。上は邸の暗がりに紛れていたという。
「――つまり、それが噂となったというわけか」
話を聞き終えて、晴明は冬真に聞き返す。
「わかったのは、そこは
「橘家というとあの橘家か?」
しかし驚くべきことは、この後だった。
「
晴明の声に、人の子に変化していた
「なにか? お
「……誰か来たようだ。様子を見てこい。ただし――、尻尾はしまえ」
晴明も元で、妖の術を学べば尻尾の数も増えるといまだに思っている叶は、喜んで出て行き、まもなく戻ってきた。
「橘……なんとかという人間が、お師さまに来いだそうです」
この都に、橘という貴族は橘利通しかいない。
陰陽師を呼ぶとなると、なにか
晴明邸にやって来たのは本人ではなく、使者だという。
晴明は吉日を選び訪問すると叶に伝え、叶はそれを使者に伝えるために再び
あれから――、人の
禁域の沼から目覚めたという
叢雲勘岦斉は、いったいなにを考えているのか。
◆
かの姫は、夢を見た。
必ず
やがて男の姿はぐにゃりと
伸ばされる腕に、姫は悲鳴を上げた。
月の夜が怖い。
この身を
なにゆえ――。
姫にはわからない。
繰り返し見るようになった悪夢。依頼、月を見ては
わからないのはもう一つ、胸に下がる金色の
姫には、その記憶さえない。
この身は
ただ一つわかったことは、怖ろしいことがこれから起きること。
これまで以上のことが。
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