第三十話 権力者たちの思惑
「
北に玄武、東に青龍、南に朱雀、西に白虎が守護せり。なれど都に
大内裏正門・朱雀門に、
門前には
真夏の炎天下での祭祀である。本当ならばやりたくないのが、彼らの本音だろう。
帝はどう思っているかわからないが、重臣たちの顔は眉間に小さな
祓えの祭祀執行の
しかも執行者は安倍晴明、
当初の予定では、執行者は決まっていなかった。
陰陽寮には陰陽師は七名、その中で高い
――私もできればやりたくないのだ。
白一色の
祓えの祭祀は終わったが、はたしてこれで王都に漂う
かえって不安にさせるのは、陰陽師の道理に反する。
(暑いのは、私も同じなのですよ)
彼らの圧を
ただ、こんな
◆
王都に
かつての
「
式部卿・
「はい。
現・東宮は今年十四歳、
「これで
候補に上げる姫君は、どれも藤原北家に連なる姫。藤原一門――、特に北家の力を削ぎたい定子にとって、北家繋がりの姫が後の国母となるのは我慢できない。
彼女の血統は、平安王都遷都の時より、一度も藤原の血が注がれる事はなかった。
今上が東宮であった頃も、定子は東宮妃選びを始めた。しかし、藤原一門の力に押され、中宮となったのはよりによって、
憎い北家の血をもつ東宮だが、定子にとっても孫。
北家の姫が東宮妃となれば、
「ですが、東宮妃に北家の姫が就かずとも、関白さまの
「心配せずとも、妾の目的は以前から順調に進んでおる。我が願いが、天に通じたのじゃ。違うかえ?」
まるで彼女の
定子は皇家を守るために、
◆◆◆
祭祀の効果なのか、翌日は
一時的なものだったにせよ、これで少しは地の乾きは収まるだろう。藤原冬真が晴明邸を訪ねてきたのはその夕刻――、
大内裏で着用している、黒地に
そんな冬真曰く、十五日の夜は冬真の
しかも曇っていようと雨が降ろうと、見えない月を愛でるというから、晴明には謎だ。
何でも雲などで月が隠れて見えない月を
「今年は玉兎を見られると、喜んでいたんじゃないのか?」
酒を酌み交わし始めると、晴明は
「月は見たいが、連中と群れるのは嫌なんだよ。俺は」
じっとしているのが嫌いな男は、宴に出るのが嫌らしい。
「お前、次期南家当主だろうが」
「今になって、なんで俺の前に兄を作らなかったのか、父上を恨みたいよ」
冬真の父、右大臣・
「だったら
宴を
「なら、お前が来い。父上と逢うのは久しぶりだろう?」
冬真はいい手だと思って言ってきたのだろうが、晴明の気分は一気に下がった。
「断る。私が行けば右大臣さまの
ただでさえ、晴明が内裏に
「お前、敵を作りすぎなんだよ……」
冬真が半眼で言う。
「私が作っているのではない。向こうが私を嫌っているのだ」
「しかし、
「確かにかの
東宮と聞いて、晴明は
雑鬼が内裏に潜り込んで友達になったと言った、キミヒトという名の少年。
正しくは
「東宮さまに、
「いや……」
晴明は、東宮本人に逢ったことはない。
ただ
十五日当日――、
晴明は冬真の顔を想像して、月明かりが照らす
この大路の西側、二条大路から三条大路にかけて
源有仁家は二代前の帝の時に、第三内親王が
不意に、晴明の足が止まる。
『晴明、気をつけろ。妖の気配がする』
いつから
「だ、誰か助けてくださいっ」
考えを巡らしていた晴明に、そんな叫び声が聞こえてきた。
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