第二十八話 消えた十二天将・青龍
どのくらい、そのままだったのか。
彼はゆっくりと
まわりは一面の
手を伸ばせば霧が壁となり、その先へはいけない。
(この俺を、閉じ込めたつもりか……?)
――
こともあろうに、敵は神に挑んできた。
いったい何者が、彼を檻に入れたのか。
「だから俺は、人間に関わるのは……っ」
吐き捨てるようにいって、最後は言葉を
人界に異変を察知して自分で降りた。そしてこの
こういうのを、人は八つ当たりというらしい。
――面白い。正体を確かめてやる。
閉ざされた空間というのは、冷静に考え事をするのはもってこいといよう。
◆
最近、どうも気が重い。
何がどうというのでないが、考え事一つにしても
食べ残した干し魚を、これ幸いと盗みに来た
『だ、だって、
必死に
『……そういえば、最近おかしいよなぁ?
「雑鬼が干からびようと困ったことではない。
『あの半人前、やはり半人前だなっ』
雑鬼がいう半人前とは、晴明を
どうやら瘴気は妖も
『まさかと思うが……、お前の呪力は平気なんだろうな? 晴明』
雑鬼の背後に狐火と化した叶も重なり「助けてくれ」という圧と、庭の
――ああっ、
大内裏・陰陽寮では、内裏から戻った
「
「関白様の、いつもの無茶振りだ」
「今度は何と?」
「
疫神祭とは
(確かにこの瘴気……)
忠行も、何とかしなければとは思っていた。
日照りが続けば田畑に影響が出る。そして今度は
「上は民のことなどより、ご自分の腹が痛むことしか気にしておられんのだ」
陰陽頭・土岐亜門は関白・藤原頼房とは
土岐家は藤原北家に比べれば
努力家の彼にすれば、関白・頼房は力に任せてのし上がった男といい、歳も変わらぬとあって、顔を合わせれば火花を散らすらしい。
確かに
「して――、祭祀はいつ?」
「
土岐の提案に、忠行は「
◆◆◆
この日も
依頼された
「これで、死人が出たのは五人目だそうじゃないか」
「
一般民衆の
出来れば刺激したくない相手だが、ここはあの男の出番だろう。
東の闘将、十二天将・青龍――、雨を運ぶとされる竜神でもある彼に、ここは出て来てほしいところである。
『
ふっと降りた
「何だ……、お前か。玄武」
素気ない態度に、北方守護神にして天将・玄武は半眼でいった。
『お前なぁ……、少しは
「青龍はどうしている?」
「何だよ。あいつに用か? ま、おおかた雨でも降らせろというんだろうが、あいつがすんなりいうことを聞いた試しがあったか? それにその依頼は、俺でも下らん」
「……だろうな」
再び嘆息する晴明である。
雨を降らせてほしいが、そんなことを晴明がいえば、青龍は返事もしないだろう。
神である十二天将を使役する主が、人間なら誰でも口にするような依頼はするなというのだ。
「それにあいつ……、いないぞ?」
玄武の言葉に、晴明は
「いない……?」
「
玄武によれば、その気配も掴めなくなったという。
これまで青龍は、東方守護神でもあっても滅多に異界を離れず、式神として晴明の元に下ってもなお、よほどのことがなければ降りる男ではなかったという。
最近は自身の意思で降りることもあるそうだが、同胞に気配を探らせまいとすることは一度もなかったらしい。
「よりによって、
主を主とも思っていない青龍が消えた。
ついに
『あの日――、俺たちはお前の元に下ると決めた。お前を主として、貸すと。
ゆえに、青龍が同胞に何も知らせずに消えるなどあり得ないと、玄武はいう。
天一は十二天将の一人であり、他十一人を纏めている存在だという。晴明はまだ一度しか逢ったことはないが、老人の姿をしていることだけは覚えている。
ならば、青龍に何か起きたというべきだろう。
だがこれにも、玄武は否定的だった。
『あの青龍をなんとかするって、どうやったらできるんだ?』
逆に問われ、晴明は渋面で言った。
「神族のお前にわからないものを、私がわかるわけがなかろう」
玄武とのやり取りに何人かの視線を拾って、晴明は
――まったく……。
十二天将は
「こちらは――、陰陽師・安倍晴明さまのお邸でございしょうか?」
立っていたのは水干姿の
「そうだが?」
「我が主より、
晴明がその文に触れる瞬間、何かが
しまったと思ったときには、晴明の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます