第二十七話 羅城門の鬼、再び! 【完】
――またしても、あの男か……。
ほとんど
見ているのは鏡である。遠くにいながらも、その場で起きていることが見られるものだが、
彼は王都の人間に、恨みという恨みはない。ただ人の心の闇を引き受けて、そのまま実行しているだけだ。
今回の依頼主は、
勘岦斉はその願いを叶えた。
人の
なにゆえと。
――吾は、お前たちとは違う。
鏡に映る
非道と
だが――。
「安倍晴明……」
鏡には、その姿もあった。
妖の血を半分引きながら、朝廷陰陽師となった男。
そして、十二天将を式神とした男。
これまでの依頼人のように、勘岦斉も初めて「あの男がいなければ」と思った。
使役する妖はいくらでもいるが、安倍晴明がいる限り、彼の仕事の邪魔になる。
――いつか必ず、お前の首を狩ってやろう。安倍晴明。
鏡の中に捉えられたその顔に、勘岦斉の決意の炎は燃え上がった。
◆
五条大路の鬼は、血走った目を向けていた。彼から立ち上るのは、怒りや憎しみなどの激しい念だ。それは炎のように赤くユラユラと背後で揺れ、闇の一部を染めている。
先に到着した十二天将・
晴明は鬼を見据え、
「遅いぞ! 晴明」
冬真が息も絶え絶えに、声を上げた。
「
「人を寄せ
半眼で
『また一人、餌が増えたか』
「しぶとい奴だな。まだ
「冬真、お前は
「わかった。気をつけろよ。この鬼、かなり
晴明は、友がいる
以前は誰とも関わりたくはなかった。
――いずれ、お前のことを理解し、助けてくれる仲間が出来ようて。
かつて、
「ノウマクサンマンダバザラダンカン」
晴明の手を離れた呪札が、鬼のいる場所を中心に青く光る
『なにゆえ……』
鬼の漏らした言葉に、晴明は
――この鬼、まさか……。
晴明は
もし
彼は意識を集中させた。
◆◆◆
そこは、一面に広がる野であった。
男はもう早朝から木を切り続け、
男の名は、
ようやく最後の薪を割り終えて、武尊はどっと腰を下ろす。
――なんと
これが、今の自分なのだ。
同じ父を
父の気まぐれの末に生まれた
満たされぬ毎日に、武尊はもう限界であった。
空腹で、空腹で、何でもいい。この
その時、彼は何を手にしたのかわからなかった。何か
「お前……、なにをした……?」
小屋の入り口に、兄がいた。酷く
「あに……」
「兄と呼ぶな!
鬼畜? 鬼畜はお前たちの方ではないか。
武尊の
目の前が真っ赤に染まり、あとのことは覚えてはいない。
走って、走って、ひたすら
「あああああああああああああ!!」
漆黒の闇の中で、彼は全て思い出した。
あの日――空腹に耐えかねて
姿はその
その時、しゃんっと鈴の鳴るような音がした。
「お前は――、逃げようと思えば逃げられたのだ」
「誰だ!?」
そこには、狩衣姿の青年が立っていた。青年曰く、陰陽師だという。
「そうしなかったのは、お前に甘えがあったからだ。違うか?」
「……逃げ出していれば、違う道があったというのか……?」
「お前は最初から間違った。答えが見つからないのは当然だろう?」
陰陽師の言葉に、武尊は
「ふふ……はは……、ははは」
そうだ。逃げだそうと思えば出来たのだ。
親や兄弟の
逃げ出していれば、手を差し伸べてくれる人間はいたのだろうか。この飢えは、止まったのだろうか。
「――もっと早くお前に逢いたかった、陰陽師。あの男ではなく……」
自分をさらに鬼畜にせしめた陰陽師。彼に願いを叶えると言われたが、答えは出ることはなかった。このまま鬼として散るのだ。
人を食い殺した報いは受けるべきだろう。この身は地獄の
◆
鬼は――、
五芒星の結界の中、鬼は
ただ、人間であった頃の彼に同情は出来る。人の心の奥底に棲む闇が、彼を鬼にした。
晴明は、過去の己を重ねる。
人から逃げ、
そんなに人間が嫌なら、お前も妖になれ――、闇の住人はそう晴明に甘く
そう、この鬼にも他の選択肢はあったのだ。
晴明は、覚悟を決めた鬼――武尊に向かい、印を組む。
「
五芒星が
鬼の
「終わったな。晴明」
「ああ……」
冬真の言葉に
「?」
彼の前、大きな影があった。
『変わった男だな。お前は』
「
『そのようだな。かつての
羅将はそう言って笑い、闇に溶けた。
『なにしに来たのだ? あれは』
騰蛇が眉を寄せ、呆れる。
「さぁな……」
それから間もなくして、
彼がいうには、羅城門に鬼の門番がいるという。人間には
「そうか……」
晴明はそう返事をして、
聞こえてくる
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます