第二十五話 羅城門の鬼、再び! ①
――まさか、またこうしてこの門を見上げるとは、な。
晴明は、
一匹は
あの時の鬼が
それが再び都に鬼が出没した。彼の足をここに運ばせたのは、あのとき、鬼を完全に
羅将に、もう当時の力はない。武器は鋭い爪と牙のみ。それでも彼は
羅将は門の上部、
妖だろうと最大の味方になることを、晴明は知っている。
晴明が告げたことに、羅将は金色の目をかっと開いた。
――力を返すゆえ、式神となれ。
そんなことをして、なんになると嗤った。
『鬼にも鬼の
彼の
――
かつて――、ある男にそう言われたことがある。いまなお、晴明に厳しいその男は、己の
つくづく困った男でこの上なく扱いづらい彼だが、彼の力あってこそ、この王都は護られている。
結局――、羅将は承諾しなかった。あの門を鬼が通ったか――、など同じ鬼に訪ねるのもどうかと思ったが、過去の因縁はそうあっさりとは覆らないもののようだ。
『――あの鬼を〝式〟とするとは
燃えるような赤い髪に金の
本来、式神というのは
何しろ
その陰陽師のなかでも、彼ら
指揮下といっても相手は〝神〟。服従しているわけではなく、あくまで力を貸しているに過ぎない。中には招喚しても出てこない天将もいれば、太陰や玄武のように用もなく顕現するものもいる。
滅多に異界から下りぬ朱雀が顕現したということは、登場の仕方から察するにかなり憤っていることが窺い知れる。
「やはり、気にくわんか?」
羅城門は王都の正面、南に建つ門である。
南方を守護する朱雀にとっては、己の警戒範囲に鬼が堂々と居座っていることになる。確かに面白くはなかろう。
ゆえに、朱雀は
『当然だ。そもそもあの鬼は、お前が逃がしたものだろう。それを今度は味方にする? お前、なにを考えている? 正気の
「奴にも同じ事を言われたよ。しかし今回の件――、人を喰い骨にしている妖は何処から王都に侵入したと思う?
朱雀が
「羅城門を――堂々と通ったというのか?」
「そうだ」
『ばかなっ。吾が見落としたと? ありえん。そんなことは絶対に!!』
「お前に気づかれず、王都に正面から入る方法は一つだけある」
そう、あるのだ。誰にも怪しまれず、正面からこの王都に入れる方法が一つだけ。
『なに……?』
朱雀が、
「人間が妖を隠していたとしたら、
『無理だな。人間が妖を連れて歩くなど、よほどの能力がある
そこまで言いかけた朱雀が、はっと息を呑む。
「気づいたようだな? 朱雀」
「あの男か!?」
「
それには、かなりの呪力を要する。まずは羅将と再戦し、彼を門から出さないと行けない。疲弊した躯では、頑丈な結界は無理だろう。
『
朱雀が、
「ただ、羅将は
朱雀はまだ不満そうな顔をしたまま
まるで嵐が過ぎ去ったかの
◆◆◆
天空に
その牛車にぴったりと
このまま
「――どうでもいいけど、大丈夫なんでしょうね?」
牛車から、若い女の声がした。だが女性にしては派手すぎる衣擦れに、冬真は
「俺はお前の方が心配だぞ?
冬真の
大人しく演じてくれればいいが、早くも化けの皮を
「わかってるわよ。でも、
「いたらお前には頼んでないよ」
冬真は半眼で、再び嘆息した。
そもそも、囮で鬼を誘い出すという案は、晴明によるものだった。
「――鬼を誘い出す?」
晴明邸にて、
「ああ。少し荒っぽい策だが、ここは貴族に
彼の性格は理解しているつもりだったが、今回は冬真の
「お前なぁ……、そんな貴族がいると思うか? 確かに王都に出没している鬼は貴族ばかり狙っているが、鬼とか妖と聞いただけで、頭を抱えて震えているような連中だぞ?」
冬真の反論に、晴明が笑った。
「彼らにやってもらおうとは思っていないさ」
こういうときの晴明の笑みは、危険だ。嫌な予感を堪えつつ、冬真は聞いた。
「じゃあ、誰に……?」
「いるじゃないか。鬼と聞いて悲鳴も上げず、震えもしない
不敵に笑う彼に、冬真は「やっぱりか……」と天を仰いだのだった。
冬真も貴族だった。藤原一門・
しかし晴明は、冬真では囮にはならないという。
鬼は馬鹿ではない。相手が腕が立つかどうかは瞬時に見抜く。さすが貴族だけあって牛車は用意できるが、問題は中身だ。
中で座っているだけでいいにしても、このわけがわからない行動に、衛府の人間は全力で拒んできた。
そんな冬真の脳裏に浮かんだのが、菖蒲である。
鬼と聞いて悲鳴も上げず、震えもしない正真正銘の貴族――、まさにぴったりの存在。
「よく私に、深窓の姫君を演じろなんて言えたわね?」
牛車の中で、菖蒲が嫌味を言った。
「自分でも、それが誤りだと今ごろ気づいたよ……」
どうやら牛車を引く牛も異変を感じたらしく、牛車も止まった。
「……どうかした?」
冬真は「しっ」と菖蒲の口を閉ざさせ、視線を前へ戻した。
牛車から
闇に
――
冬真が
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