第二十四話 禁域から目覚めた禍
『いったい、何なの? あれが人にものを頼む態度なわけ!?』
「お前が
『あんな
四条大路沿いは朱雀上皇、
そんな晴明に、
主殿に案内したのは邸の女房で、しばらくお待ちくださいと言ったまま、まさにしばらく誰もやってこなかったのだ。
しかし晴明は、待たされる事には慣れていた。
これまで貴族の邸に赴いては待たされ、ようやく来たかと思えば今度は早く帰れといわんばかりに追い出される。
現れたのは当主の藤原成親ではなく、
第一印象は「やはりな」というものであった。
雅経は
「貴殿の
「雅経さま、私が何者か知りたく呼ばれたのでございますか?」
「そうではないが――」
そしてようやく、本題を話し始めたのである。
藤原雅経には、二人の弟がいる。
次弟の
三月前、二人の弟は父・成親の荘園を訪れていたらしい。しかし
「まったく、愚かなことをしてくれたものよ」
雅経はそう言って二人の弟のことを鼻で
荘園の近くには、
その成経も、ついに妖の
「雅経さまは、王都で起きている怪異が、その禁域から出たモノの仕業とお思いですか?」
「それは、そなたらの仕事であろう? ただ――、当家としては何ら
ここまできて、事態を
『あんな奴の依頼、引き受ける気? 晴明』
太陰の目が苛烈に光る。
確かに身内の不幸を悲しむよりも、対面と
「それに――」
太陰が眉を寄せて、首を
「それに?」
「彼は依頼してはいない」
そう、藤原雅経は弟たちが禁域に入った
『でも、やるんでしょ?』
太陰が
既に何人もの人が妖の餌食となった。謎の妖がなにゆえ王都に現れたのか
「太陰、引き続き妖の気配を探れ。次の被害はなんとしても防ぐ!」
『わかったわ』
太陰は
◆◆◆
――お前は必ず
書に視線を落としていた叢雲勘笠斉は、
なにゆえにと
お前が殺したと
風に乗って運ばれるそれらの声は、彼の耳に絶えず届く。だが彼は、それが
その願いを
彼の前には、黒く
かつては彼も、陰陽寮の陰陽師を目指した。しかし、
「ふふ……、
妖に
報いならば、人を
故に、お互い骨になった。
――バケモノめ。
風に乗る誰かの
「好きなだけいうがいい。もうお前たちには、なにもできぬ」
あの男なら――。
勘笠斉は、口に運びかけていた
罵る声はもう聞こえてこなかったが、『あの男』と聞いて、ぞわりと嫌なものが背を
妖の血を半分引きながら、十二天将を使役する安倍晴明――。
これまで彼には二度も術を破られ、式とした妖も
「ふ、面白い」
勘笠斉はほくそ笑んだ。
対決できる相手がいるならばなおのこと、能力が使える。
もう一つ楽しみができたと、彼は嗤った。
◆
平安王都への正面玄関――、
この羅城門を、
名を
門の真下に、立烏帽子に狩衣姿の青年がいる。貴族にしては
羅将はその青年の顔を、嫌というほど覚えていた。
出来れば二度と会いたくない男だったため最初は無視をしていたが、その青年はまだそこにいた。門を見上げ、明らかにこちらの存在に気づいているようだ。
少し前の自分なら、
「まさかまだ、居座っているとは思っていなかったな」
青年が笑う。
「何しに来た? 俺を
「お前が都に再び仇なすつもりならそうするが、今は見逃そう」
おかしなことを言う――、羅将は晴明を
「ふん、この俺も甘く見られたものだな。以前の俺なら、お前など握りつぶしてくれように。しかも、今になってお前から会いに来るとは」
「お前に聞きたいことがある。ここを妙な者が通らなかったか?」
「お前……、俺が誰か忘れたか?」
「羅城門の鬼・羅将――だろう? 忘れるわけがない。私が陰陽師となって初めて破った相手だ。能力を封じたまでは良かったが逃げにれたけどな」
「そうだ、そんな俺が憎いお前に門を通った怪しい奴など教えるわけがなかろう」
「もう五年前だぞ?
晴明から敵意は感じられなかったものの、友好的な態度も羅将の
「黙れ! 帰れ」
「能力を返すと言ったら?」
「なに……?」
羅将は
「信じる信じないはお前の勝手だが、能力を返しこの門に棲むことも認めると言ったら、お前は私の問いに答えるか? 羅将」
「貴様――、なにを企んでいる? 安倍晴明」
かつての敵に、羅将は鋭い
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