第二十一話 六条坊門小路に消えた男
――消えたのだ。ある日、突然に。
男が消えて半年、男が所有していた龍笛は、巡り巡って
かの男は
晴明は
なにゆえに――。
この日も風に乗り、『声』が晴明に届く。
いまだその妖も、その妖を
いつもは仕事中だろうと話しかけてくる
そんな晴明邸に、
晴明しか人間は住んでおらず、
――まったく。
晴明は
「近衛府は
「
「魔獣……?」
◇
六条坊門小路に牛車を進めていた所、笛の音が聞こえてきたらしい。すると目の前に黒く大きな
随身は
「――まさかと思うがその主、骨になっていたんじゃないだろうな? 冬真」
話を運んできた冬真の顔からは、いつもの明るい表情は消えていた。
「いくら獣に襲われたしてもだ。検非違使が駆けつけるまでに
冬真の言葉の最後を、晴明が続けた。
「間違いなく妖の仕業だろうな」
またしても現れた人喰い妖。しかし今回だけは、笛の音が加わった。
「晴明、どうする?」
晴明は
「六条坊門小路――と、言ったな?」
「そうだが?」
冬真が
半年前に消えた
六条坊門小路は、五条大路と六条大路の中間に位置する小路である。
朱雀大路との交差点の左京側・右京側には、それぞれ一箇所ずつ
まさかそんな
恐らくその男は、もうこの世にはいないだろう。そんな気がする晴明だった。
◆
なにゆえに、我は。
聞かせて欲しい。なにゆえなのか。
なにゆえ我は、殺された。
答えよ。
我が声が聞こえるのならば。
六条坊門小路を風が吹き抜ける。その風音は、笛の音にも聞こえる。
今にもそこから異形のモノが
かの男はここで消えた。聞いた話によれば、男の
その龍笛は、男が消えてから音を
何故か――、晴明がその龍笛を初めて目にしたとき、ある念を感じた。
それは決して
人に
なにゆえに。
なにゆえに聞こえぬ。
誰もきづかぬ。
我のことを。
我の声に。
これまで誰にも声は届かず、龍笛は人の間を渡り歩いた。
もし晴明の手に渡らなければ、『彼』の声を、誰が聞けただろう。
「――あなたは、死ぬ必要はなかったのかも知れない」
晴明は龍笛を見つめ、姿亡き元・持ち主に語りかけた。
もしかの陰陽師が関わっているのなら、『彼』の存在を消したいと願った人間がいる。そしてそれを叶えた男がいる。
――
以前――、かの陰陽師のことに関して、十二天将・青龍は
晴明も同感だが、彼に人を裁くこと出来ない。
十二天将も同じだ。彼らは神だが、人界には不介入の
――来た……!
晴明は
◆◆◆
ただ、異界では人間の想像を超えるモノがいてもおかしくはない。
六条坊門小路の
ふさふさとした毛並みに尾、見かけは大きな狗、
『何者ダ、オ前ハ? 妙ナ
魔獣が一歩前へ踏み出すと、
「――陰陽師・安倍晴明」
『陰陽師……? ソレニシテハ妙ダナ。オ前――、人間カ?』
魔獣は晴明のもう一つの血を
「それより、聞きたいことがある。半年前、ここで笛工を襲ったのはお前か?」
『笛工……? ソンナモノハ知ランナ。笛トイエバ、
やはり、かの男は死んでいた。しかも魔獣は、その男の名前まで知っていた。
つまり当時、笛工・大伴露房はここで魔獣に待ち伏せされた。おそらくそこには、かの陰陽師もいただろう。
晴明の中に怒りが沸く。
「お前に喰われた者たちの無念、晴らさせてもらう!」
『ワカッタゾ。オ前――、妖ノ血ヲ引イテイルダロウ?』
その言葉に、晴明の
「お前、妖の血を引いているだろう?」
遠い昔――、ある子供が晴明に言った。王都に来て間もなくの頃、近くの寺で鳥の声を聞いていた彼に、その子供が言ったのだ。
そして彼は、晴明から彼はゆっくりと後ずさり逃げた。そしてもう二度と、晴明に関わることはなかった。子供の頃の晴明にとって、ようやくできた友だった。
半妖とわかった瞬間、その関係は一瞬で消えた。
誰にもわかってくれない。
誰も信じられない。
人間なんて、みな同じ。
いつしか
――いつかお前のことを理解してくれる仲間ができようて。
そう、私は人間だ。半妖だが、人として生きている。ゆえに――。
「お前のようにはならない……!」
その言葉は眼前の魔獣に対して、そして陰に潜む陰陽師に対してもだ。
『
「
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