第二十話 太后からの挑戦~鳴らぬ龍笛の謎
夜――、日中の
それでも
だが――、その音はなんの
これがかなり
『なんだぁ!?』
かの音を出したのは、どうやらその直垂姿の男のようだ。よく見れば、横笛を手にしている。玄武は土色の髪を
『あの男――、
『違うんじゃない……? まだ下手くそな玄武の笛のほうがマシよ』
『……悪かったな。下手くそで』
『玄武の笛が下手なことはいいとして……、嫌な気がする』
太陰と並んでいた
『ええ。アレ、かなり
直垂姿の男が吹いた笛に、
『どうやら晴明は、またも
玄武が話に混ざる。
『例の男、関わっていると思うか? 騰蛇』
『さぁな。とにかくその男を見つけ出す。
船を
『お前ら……、言いたい放題言いやがって!』
『それよりもたもたしていると、また青龍の
『同感だ』
太陰が
玄武はやれやれと
◆
晴明邸・
酒の入った
「……
笛を吹いたのは、冬真である。
「わかっている……。これほど
「たぶん
楽所とは以前は
冬真が吹いたのは、その雅楽で使用される
冬真が所属する近衛府は、楽所が雅楽寮と呼ばれる頃から
その冬真を以てしても、二人の前にある龍笛は
「そもそも龍笛なんぞ、何故お前のところにあるんだ?」
「
「源博雅さま!?」
今度は冬真が酒を吹き出す失態をやらかした。
「冬真……」
晴明は半眼で、顔に飛んだ酒を再び懐紙で拭う。
「あ、すまん……」
源博雅さまは、今上帝の生母・皇太后に仕える
しかも宮家出身で、前の
「源博雅さま曰く、
「それなら、これでなくていいんじゃないのか?」
「それもそうはいかんらしい。この龍笛は、その太后さまから
「しかしだ。お前のところに依頼する意味がわからん」
「
冬真の目が
「お前なぁ……、それを先にいえよ」
晴明としては、
晴明は依頼されるとき、相手の裏が見えてしまう。それぞれ抱えた事情、その依頼に関わる人間の中身まで様々だ。見ないように努めているが、自身の中にいるもう一人は、どうも探りたくなるらしい。このときもそうだ。
龍笛は博雅に下賜されるときにはもう、この状態だったのではないか。よくもまぁそんな代物を与えたと思うが、太后の狙いが晴明にあるとすれば
「冬真、太后さまにお逢いしたことはあるか?」
「あるわけないだろう。かの
聞けば中宮を立てる際に、太后は先帝の第三皇子を父とする姫を
「つまり、お互い最大の
冬真は「ここだけの話だがな」と、
◆◆◆
大宮御所――、上皇が住まう
かつては国母と呼ばれ、奥内裏最高位に座していたが、今やこの殿舎に籠もっている。
皇太后宮権大夫・源博雅は牛車を
「太后さま、博雅でございます」
「
許を得て御簾を潜ると、
「――待っていたぞ。それで、あの男の反応はどうであったかえ? 博雅」
太后は御簾を半分垂らした座にて、
「
「かまわぬ。あの男の実力をみるためじゃ。そなたには悪いことをしたの」
「とんでもなございませぬ。太后さまにお仕えする身として、お役に立てるは
「
藤原一門が力を広げるまでは、
彼女には
「――安倍晴明を御味方に?」
「それはこれからじゃ。あの男の
怖い方だ――と、博雅は思った。
だがそれでも博雅は、
◆
晴明はその日、楽所に足を踏み入れた。
陰陽寮から陰陽師が来ることなどこれまでなかったためか、楽士たちは何事かと腰を浮かせ、応対に現れた
「――いったいかような所に何用か?」
「源博雅さま所有の龍笛を、ご存じと窺いました」
「はて、龍笛というと?」
扶義は扇を口に当て、目を細めた。
「かの
「なにゆえ、そなたがそのことを知っているのだ? よもやなにかよからぬことが……
扶義はそこまでいいかけ、しまったという顔をした。やはりあの龍笛は、曰く付きだったようだ。でなれば「なにかよからぬこと」とはいわない。
「――ご安心をまだなにも起きてはおりません。ですが、あれをみた以上、陰陽師として動かざるを得ません」
扶義は
「――あの龍笛は、元々はある男がものだったのだ」
「その方は?」
「消えたのだ。ある日、突然に」
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