第十六話 過ちと後悔
ああ、なにゆえに。
なにゆえに、あのバケモノは。
聞こえているか。
気がついているか。
我が思いに。
我が声に。
水を
――ただ、あのかたの
華が一つ咲くたびに、お前の
その
――これが最後だ。
〝彼〟は
◆
そこからは、
異界から降りねば、そうした闇に触れることはなかったかも知れない。と言って、知らぬ振りもできない。また
その男は木の上にいた。
『――まだ怒っているの? 青龍』
太陰を
『俺はお前のようにすましてはおれぬ』
『別に、すましてなんかいないわ。あなたが短気すぎるのよ』
青龍は十二天将の一人だが、人界では東を守護する
『人とは、かくも
他人に対し
『それが、人なのかも知れないわね。みな、心の闇を抱えている。そしてそれと必死に戦っているんだわ。誰も彼も、咎人にはならなくてよ? 青龍』
『
『晴明を含めた全ての人間よ。ただ彼の場合は、違った意味での闇を抱えているみたいだけど』
自分は陰陽師ゆえ――とし、それを
神という名で
青龍が口を開く。
『晴明は、自分では
『人は人が裁く――それは、わかっていることよ? 私たちには手出しできない。晴明が命じない限りはね。でもたぶん晴明は命じないと思うわ。殺せとは』
陰陽師は人を裁く任に
『――ここで
『お前に
青龍はふっと笑って、
『ほんと、可愛げがないんだから……っ』
腰に手を当てむくれる太陰だが、彼女もまた風を
◆◆◆
「息子を救ってくれ……っ」
帝に
晴明は、その男の顔を知っていた。
男は
初めて彼と
その前からも、晴明が通りかかるたびに眉を
それからしばらくして、
「ご
晴明は、彼の息子も知っていた。
今のように内裏の中を進んでいると、数人の
その蛙を射ろと言ったのが、彼の息子・
名前を知ったのはその時に一緒にいた男からの情報で、性格は言うに及ばず、行いも
「式部小丞さま、場所を
「以前の……その……、
必死な有綱に、晴明は肩を落とし「
夜――、
はたして
「――あの
晴明から内裏での話を聞いた冬真は、そう言った。
藤原有綱という男は、
「なぜた?」
晴明の問いに冬真は軽く嘆息し、
「
と言う。
ゆえに、その第一子は元服後すぐに仏門に入られたという。
だが――、晴明が聞いた跡取りとなった二男・惟規の噂は、
冬真が、話を続ける。
「周りにいる連中も似たようなものさ。
「となると、式部小丞さまの依頼は子息の
「
確かにそれならば、晴明の出る幕はない。
だがあの時――、晴明は
「冬真、式部小丞さまの邸はどの辺りだ?」
冬真が、
「……
晴明は、軽く唇を噛んだ。
この二日前――、天将・
夜警に戻る冬真を見送って、晴明は
◆
「あ……あぁ……」
「わたしは……悪く……ない……」
頭を
「我が
女が男に
「あ、ぁ……」
「ようやく……、わたくしの夢が
それは冷たい手だった。その手が男の首筋を
なにゆえ――。
助けを求めたくても、声が出ない。
自分に
「わたし……は……」
男の中で、何かがプツッと切れる音がした。
それがなんだったのか、彼にはもうわからなかった。
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