第十四話 妖を使役する陰陽師
ああ、どうかわけはお聞きにならないでくださいませ。
ですが、我が
あの男が来てから、急に。
考え込んでいると思えば怒りだし、
ああ、どうかお
なにかよくないことが起きるのでございましょうか。
我が殿は、あの男はどんなことも引き受けてくれると申しております。ええ、それ以上のことはまったく。
どうかこのことは、ご
あの男の名前でございますか? いえ名前までは。ただ、あまりいい感じのしない男でございました。
ただ――そう、陰陽師と申しておりました。
◇
最近どうも、内裏の中が暗い。
見る限り
そんな彼らと接していれば、影響を受けるのも
「
視線を運ぶと、中宮・
自分には無理だな――と彼は
美しい花(女性)から花へ渡り歩くのはどうしようもないが、人前で表情を変えるなど、とうの昔に忘れてしまった。心を隠すのは、自分も同じだ。
「なにか、お心を病まれることが?」
「私は帝として、ただ座っているだけの存在なのかと思ってね」
「主上は
古くは
今上は開いた
「主上?」
「頼房も、そなたと同じことを言ったよ。瞳子」
決して皮肉のお返しではなかったが、さすが頼房の娘である。
だが、そんな彼女の強さに今上は
「――どなたか陰陽寮から召されては? お心が少しなりとも晴れましょう。主上」
瞳子の勧めに、今上は
「そうするよ。瞳子」
◆◆◆
――どんな依頼も引き受ける、
そんな
賀茂忠行はそんな
「
「貴族たちの間で、どんな依頼を引き受ける影の陰陽師がいるそうです」
「どんな依頼もか……。ろくな依頼ではなかろうの」
忠行は
陰陽師なら陰陽寮にいるのに、わざわざ外部に依頼する。それもどんな依頼も――となると、その依頼は確かにろくなものではないだろう。
もちろん、陰陽寮に属さぬ『隠れ陰陽師』が何人か王都にいるとは知っていたが、やはり人の心に生まれる闇は、
内裏にまで持ち込んだその闇は、今上帝を不安にさせたようで、晴明は清涼殿に召された。すぐに祓えの呪法を行うと辞したが。
「
「気になる人物とな?」
その人物は、青い顔で晴明の前からやってきた。ただそれだけならいいのだが、その男から軽く
よほど近づかなければ、陰陽寮の陰陽師でも気づかないほどの。
どおりで、帝の近くまで重い気を運んでいた
さすがに見逃せず、晴明は
おそらくそれで、男への害はその形代が
「――つまり、何者かがかの
「呪詛ならまだいいのですが……」
晴明が感じた妖気は、呪詛のそれではなかった。かの人物は
だが問題は、噂になりつつある『影の陰陽師』の存在である。
晴明の心をまたしても、不快でドロドロとしたものが広がり始めた。
実は彼がその陰陽師の存在を知ったのは、この日の二日前まで
その夜――、依頼されていた
しかし
しかも連れて行かれたのが、
貴族の強引さには
「――かような場にお越し頂き恐れいります。安倍晴明さまでございましょうか?」
御簾の中から聞こえてきたのは、女の声だ。
「いかにも。かなりのご身分と
乗ってきた牛車も
「訳あり、当家の名は言えませぬ。晴明さま、あなた様は帝も
女は、その男の
ある夜、
その訪ねてきた男というのは、陰陽師だったらしい。
「お話を
「依頼……と、申しますと……?」
どうやら北の方も、察しているらしい。声が震え始めた。
「呪詛――」
「そ、そんな……っ、ああ、まさかあれは――」
「あれは?」
いったい自分になにをして欲しかったのか、北の方は今度は帰れと晴明に言う。
このことは
恐らく、呪詛は行われたのだ。
「忠行さま……っ」
視線を上げた晴明は、陰陽寮に駆け込んでくる
「何事じゃ」
「また、見つかりました……っ。今度は、大宮大路の
その先は聞かなくても、晴明にはわかった。
「
「……いったいどうなっておる……?」
また
まさか、あれは――。
おそらく晴明を山荘に呼んだあの北の方は、晴明が想像したものと同じことを思ったのだろう。つまり――。
(妖を使い、人を喰わせた……!)
それはもう、人間とはいわない。
その男と同じ陰陽師として
もし、想像のままなら――。
(
心の底から湧き上がる
これまで人が憎いと思ったことはあったが、そんなものとは比べものにならないほど、彼は
◆
その男の前で、それはジュッと音を立てて燃えていた。
男が〝式〟として飛ばしたものだったが、返って来るなり燃え上がった。
――気づかれたか……。
依頼が成功していれば返ってくることはなかった〝式〟は、黒く
「な、なにが起きたのだ……?」
男の背後で、彼の依頼主が
「誰かに、
「し、失敗したのか……っ!?」
「そう
依頼主は、かなりの身分にある貴族だった。
政敵を呪えという依頼を、男は受けた。
「わ、わしは、あのようなことは頼んでおらぬっ! そ、そなたが勝手に……」
そうだ。彼らは
よくいう。人を
男は、依頼主を見下した。
「消して欲しいと言われたではありませんか? 方法は
「ひっ……」
青ざめる依頼主を、男は
「そしてこうも言われた。何が起きても――構わぬと」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます