第十三話 冬真の災難
見つけた。
見つけたぞ。
そう、お前だ。
お前が、アレを目覚めさせた。
お前こそ
許せなさい。
許さない。
お前も
さらに
――まったく、
視線を運んだ先には、黒い影が躍っていた。
「
黒い影は大きく伸びて、
「ふふ……、つまりそういうことだ。お前は吾には勝てぬ。吾を殺したとて、お前は元には戻らぬ。やかで意思も溶け、〝お前〟という存在は消える。違うか?」
『……』
「わかったら
黒い影は、そのまま入ってきた蔀のほうに消えていく。
そう、自分は彼らの願いを叶えただけ――。
この世から、人の負の念が消えない限り、彼のような人間が嗤う。
彼は腰を上げ、
「お待たせして申し訳ない」
そこでは、一人の貴族が
「そのほうが、
ほら、また愚かな依頼者がやって来た。彼はにやりと嗤った。
「――聞きましょうか?あなた様が消したい者の名前を」
◆
「まさかと思いますが……、出ないでしょうねぇ?」
冬真の後ろに続く少将の頼りない声に、冬真は嘆息した。
「お前なぁ、それでよく
王都で起きている謎の怪異――、人があっという間に骨にされるというそれは、いまだ原因はわかってはいない。晴明は妖の仕業と断じたが。
「あ、相手は人間ではないのですよ? 中将」
少将は、自分も骨にされると怯えているようだ。
「それでもだ。我々が怖がっていては、大内裏も帝も護れん」
「中将は、怖くはないのですか?」
「
冬真の
そもそも、都での事件は
困ったことに、都に出るとなると、
ならば俺が行くと冬真が名乗りを上げると、今し方まで青い顔でなすりあいをしていた武官たちが
(いつか
半眼で
それは前から来るのか、後ろから来るのか、どんな姿なのかもわからない。襲われているのに、その姿を見た者がいないのだ。
そろそろ
「どうした?」
途端、馬が暴れ始めた。
「中将っ!!」
「落ち着けっ!!
「くっ……!」
冬真の
彼は
「くそ……っ、俺としたことが……」
妖が目の前に現れたとしても、いまの冬真には弓は使えない。
落馬の際に頭を打ったらしく、意識が消えていく。
――どうやら、骨になるのは俺のようだな。
冬真は
◆◆◆
冬真が襲われた――、そう
いつもは
二人は晴明の命令を
謎の妖の気配を探り正体を突き止める――、そして妖気を察知した。
だが妖気だけで、姿は見せない。
『
太陰は
そこに運悪く、見回り中の人間がやってきてしまった。二人はそのうちの一人が誰かよく知っていた。妖はなんと、その人物の前に飛んだのだ。
それが、冬真だった。
冬真は襲われたというより、巻き添えを食らった――というのが正解だろう。
天将たちは、妖に逃げられたということよりも、人の気配に気づけず、その人間を攻撃に巻き込んだ自分たちに
「それで――、
晴明に責められるだろうと思っていたのか、太陰と玄武は「え……」という顔をして、目を
◆
――現在の藤原家は、都がまだ
やがて彼らは、それぞれ家を
長男は
現・南家は右大臣・
その南本家は
型に染まらぬ冬真の性格上、いつ災難に見舞われるかひやひやしていたが、当の本人はといえば、
邸の女房に案内されて
「なんだ。生きているのか……」
そんな晴明に、
「お前なぁ……、その残念そうな顔はなんだ。危うく、白骨になりかけたんだぞ。俺は」
「その分では、とうぶんあの世とは縁はなさそうだな?」
「俺を勝手に殺すな。俺は
普通の人間ならば、落馬すれば死んでいたかも知れない。冬真が軽傷ですんだのは、馬を乗りこなし、落馬の際の受け身も
「お前には……、悪かったと思っている」
「どうした?急に」
天将たちの代わりに
だがこれでわかったのは、かの妖は晴明の近くまで来ていること。
そして――。
「なにゆえ……」
かの男は
男は振り向いた。
「なにゆえ?あなたを消して欲しいと依頼されたのですよ」
「お……まえは……」
ああ、喰われていく。
得体の知れぬモノに、なにもかも。
なにゆえ、かような目に遭う。
誰が、自分を
なにゆえ――。
喰われていく男に、その男は嗤った。
「私は――陰陽師ですよ」
そして、見えていたものを見えなくなった。
絶望の中、男は
――バケモノめ。
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