第十話 招かざるもの
晴明が父・
そんな父・益材が何を思ったか、
二人でも広すぎる邸には池もあり、池に面して建つ
晴明が十四の時に阿倍野に逆戻りした益材だが、それからもふらりとやって来る。
そしていつもの場所に座るのだ。
よくもまぁ、
そう思った晴明の感想は、いまでも変わらない。
『いつも思うが、お前の
晴明邸に
「さぁな……」
晴明はそんな父・益材の背を見つめつつ、
彼が何を考えているか
ただ――。
晴明は、墨をする手を止めて
遠い日――、初めて
――大丈夫だ。彼らは全部が悪いものじゃない。
頭を
そして今、少しだけ安部益材という男が理解った気がした。
――妖も人も、全てが悪者じゃない。お前はまだ、一部しか見えていないのだ。
そう、子供の時の自分は一部しか見えていなかった。人も妖も、全て敵だと思っていた。
息子に無関心にみえて、本当は心配してくれているのだと気づくのに、十年以上もかかってしまった。それならそうと、もっとわかりやすい愛情の示し方があっただろうに。
池の
今は周りの目を
陰陽師となってより一層に、それは見える。
益材が、静かに腰を上げた。
「お帰りですか? 父上。もう少しゆっくりされては?」
「いや……、釣りの帰りに立ち寄っただけだからな」
こういうときは、嘘が
阿倍野から王都まで、釣りの帰りに立ち寄るほどの近さではないというのに。
益材が、
文台に戻ろうした晴明は、池を見て
池から、黒く長いモノが覗いていた。
それは
漂ってくる
まさか、陰陽師の邸に乗り込んでくるとは――。
◆
「
「はは……、まったくですなぁ。
頭中将・藤原冬房――、関白・藤原頼房の次男。
確かに、
「聞けば、
「は……?」
「
お陰で頼房から軽んじられていたが、晴明に近づいたことで今度は
「何か
「ああ……、そうだったな」
冬真としては早く解放されたいのだが、冬房はしつこい。
「そういえば――、
「それがなにか……?」
「都も
じっと
「――まさか、主上に対してそのような……こと……は……」
(
いまにも睨み殺されるのではないかという強い視線に、冬真は
ようやく開放されたときは、どっと体力を
「中将……なんか、お疲れの様子ですが?」
冬真は一気に
「死ぬかと思った~!」
◆◆◆
晴明邸の池に現れた〝それ〟は、
『晴明――』
「おまえがやってきたということは、これか?
十二天将・騰蛇、青龍と並ぶ
その青龍同様、滅多に人界に降りてこない騰蛇の出現に、ことの重大さが窺える。
『ああ。嫌な妖気を察したのでな。まさか、お前の邸に現れるとは』
はたして、池にいる
「――
『晴明?』
思わず口から出た名に、騰蛇が眉を寄せた。
口にした晴明も、目の前にいる妖が人を
「騰蛇」
晴明が何かを命ずる前に、騰蛇は動いていた。
領巾に風をはらませ、妖に向かっていく。
『逃がさぬ』
水中へ消えていこうとしている妖に、騰蛇の放った
一瞬明るくなる池だが、すぐに何事もなかったように静寂に包まれる。
――逃げたか……。
騰蛇は宙に浮いた姿勢で、
ただ、晴明はどうも
現れた妖からは、
ならば、なぜここに現れたのか。
――大丈夫だ。彼らは全部が悪いものじゃない。
父・益材の言葉が蘇る。
晴明の心に薄く張った
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