第九話 櫛風沐雨、我が主の半生
とある
(これだから、雨の日の外出は嫌なのだ……)
その牛車の中にいた男は苛立っていた。
牛車を降りると、パシャリと
濡れた
「
「
「なにも――おりませぬが?」
「いるではないか? そこに」
牛飼い童たちは、ますます
男は、自分だけが見えているものが何なのか怖くなった。黒い影のようなモノがすうっと上に伸びて、こちらを見てくるモノが。
(これならば……)
男は
いつもなら
後悔はやがて
ああ、なにゆえ――と。
◆
また、王都に
朝からそんな話を聞かされて、かの青年は
「お前なぁ……」
「
晴明は人の心を軽く
そもそも、迷惑だと言いながらも
同じ
それをしないということは、藤原冬真という男に心を許したということなのだろう。
「で、今度はどこなんだ?」
「
東洞院は
「なにせ、
「いや」
「
藤原實朝は
その夜は宴に呼ばれた帰りで、前日の雨の影響により帰るのに時間がかかり、實朝は酷く苛立っていたらしい。
帰宅して
「――そこに實朝さまの骸があったというわけか」
「ああ、見事に骨になってな」
見た北の方は恐怖のあまり、寝込んでしまったらしい。
しかし、またも青い
間違いなく、この王都に〝それ〟はいる。いくら亡くなったからと、人はすぐに白骨にはならない。明らかに、何モノかが関わっている。
冬真が帰った後、暫く
最近は自由気ままな
『何か用? 晴明』
「なんだ……それは?」
『なにってみればわかるでしょ?』
なんと彼女は、
軽い頭痛を覚えた晴明だが即、脱げと命じた。
太陰も着てみたものの動きづらかったらしく、いつもの姿になった。
『それで?』
「都に
『わかったわ』
「太陰」
赤い髪をふわりと舞わせて背を向けた太陰を、晴明が呼び止めた。
『なぁに?』
「この間、お前が言いかけたことは何だったのだ?」
振り向いた太陰の目が一瞬見開かれ、答えるまで間が空く。
『……そうだったかしら? もう忘れたわ』
彼女はくるりと背を向けて、
太陰が残した風が晴明の近くにあった
暫くすると、
「やぁ……」
狩衣に
「まさか、その
◆◆◆
雨が降ったり止んだりを繰り返す王都の
『なぁ?
晴明邸を離れた太陰はもう一人、異界から降りていた天将にして、
十二天将の中で
『……完全に人ではなくなるでしょうね』
彼らも神だが人の
『あいつの下に降りたこと、後悔していないか?』
『あなたはどうなの? 玄武』
『晴明に使われてみると楽しいこともあるが、大抵は無茶な命令だ。あいつ、俺たちが神だということを忘れていないか?』
『たぶん、考えていないと思うわ。私たちなら彼の心を
恐らく晴明の心は、まだ迷いの中にある。
いつ再び、心に冥がりが生まれるか知れぬという思い。
人の中で最も冥がりの地に近い者として生まれた彼は、これからも迷い、戦って生きていくのだろう。その
人界に降りなければ人と接することも、その
だからといって、後悔はしてはいない。
玄武は晴明に
『とりあえず、俺は晴明の
にっと笑う玄武に、太陰は
なにゆえと嘆いた
黒い
晴明は個々に集まる
普通の陰陽師なら、その魂も塵となり、
『あの魂、どうなったんだろうな?』
『いくら晴明でも冥府の領域にははいれないわ。
大髑髏の
『人間っていうのは、俺たちに比べたら命はあっという間だな』
『そうね……』
あとどのくらい、晴明の式神としていられるのだろう。
玄武が
『泣いているのか? 太陰』
『
『……なにかあったのか? 晴明の邸で……』
突然怒り出す太陰に、玄武が首を
『なにもないわっ!』
まさか、人の
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