第八話 泥中の蓮
いつの頃からか、人に
人には聞こえない声が聞こえるようになった。
彼らはにぃっと口の
なにゆえ……。
一人の子供が言った。
「決まっているじゃないか。お前は
「ああ、怖い怖い。人間の中に〝バケモノ〟がいるぞ」
一人二人と人の子が増えて、彼を――晴明を嗤う。
人の世は、
ゆえに、逃げた。
このままここにいれば、妖を見ないですむ。人から
そう、ここにいれば――。
そんな晴明の頭を、誰かの手が触れた。
そこには、
『妖も人も、全てが悪者じゃない。お前はまだ、一部しか見えていないのだ』
「一部……?」
『いつかきっと
晴明は、蓮のたとえを聞いたことがあった。
蓮の花は、
厳しい環境であっても影響されることなく、
その人物は、もうそこにはいなかった。
そんな晴明の
「ねぇ? 遊ぼう」
振り向くと
「こっちへ来なよ」
誘っているのは、明るい方でなく、暗い闇の中。
行かない。その冥がりには二度と。
『
「いいさ。言わせたい
もうそこに、子供の晴明はいない。
「さらばだ」
『
まったくしつこい。
晴明は
蓮のたとえのように心清くとはいかないが、人の世で
半妖であるこの身を、受け入れてくれた。
ゆえに、もう怖くはない。
さぁ、帰るんだ。彼らが待つ世界に。
◆
『晴明!』
ふっと
『ちょっと晴明! なにを、
相変わらずきゃんきゃんとよく
『嫌だぜ……、髑髏になっても力を貸せって来られても』
一緒にいたのは、十二天将・
晴明は
どうも最近の十二天将は、
「安心しろ。奴の躯の一部にはならん」
遠い日の記憶を呼び起こされて、晴明はやる気が湧いた。
久しぶりに見た冥がりは、やはりいいものではなかった。闇はあの手この手で晴明を招き、人を憎めと言ってくる。
完全に妖となり、人に
だが、
ここには仲間がいる。
自分を必要としてくれる人間がいる。
人の世で生きていくと決めた彼は、陰陽師となった。
『オォォォォォ……』
大髑髏の
「十二天将を三人も見られたのはいいが、
賀茂保憲は
「保憲どの、この妖気はあの大髑髏のものではないかと思います」
「ならばこの妖気はどこから漂ってくるのだ?」
大髑髏は、この世に
嘆き悲しむ
彼らとて、妖となるのは本意ではなかろう。
ゆえに、問うてくるのだ。
――なにゆえに我らは、かような目に
なにゆえと答えを見つけられぬまま
だが少なくとも、人として生まれた
持参した
「
「お前がいうと、
晴明は、
籠目は即ち
晴明は、
その
『止メロ! 彼ラワ、人ヲ憎ンデカヨウナ姿トナッタノダ』
晴明は
「
『
「晴明っ!!」
再度の鎌鼬が、晴明に向かってくる。だが、晴明は声を張った。
彼らを、冥がりから
「泰山府君に願い奉る。
◆◆◆
その人は、いつも背を向けている。
庭の池を
子供の頃は、その人が何を考えているのか
もともと
いつの日か理解るときがくる。
冥がりに現れた男は誰だのか、晴明はようやくわかった。
――相変わらず理解りづらい人だ……。
ふらりと現れては多くは語らず帰って行くその人を
その人がなにゆえ、
池に浮かぶ蓮の花を、
父・
『オノレ……! ナニユエ……』
大髑髏を
取り込まれていた魂は、天に向かって昇っていく。
「終わったな……。晴明」
「ええ……」
無事に彼岸を渡れよと、晴明は彼らを見送った。
小倉山を後にするとき、晴明は背後に気配を感じて振り返った。
「どうした? 晴明」
「いえ……」
そこに、何かがいた。
晴明の勘がそう告げる。
だがそこには、岩が一つあるのみ。
やはり、真に対峙しなければならない相手は他にいる。
この王都の、どこかに――。
それから間もなく、王都に雨が降った。
そんな王都の
雨の中、見ていた〝それ〟は
ああ、なにゆえに。
信じていたのに。
待っていたのに。
お前なら――、助けてくれると思ったのに。
なにゆえ、聞こえぬ。
なにゆえ、見えぬ。
早く。
早く。
もうすぐ、あいつに
我が声を、彼らの
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