第七話 冥がりの地
ああ。なにゆえに――。
かの
白い
なにゆえと、問うてくる。
我が声が聞こえたらば、
その華は
華を辿れば自然と
◆
皇族や貴族は
地を吹く風は、
まるで、早く
晴明は
まだ
さすがにこの
見てしまえば、迷いがさらに強くなる。
もし人でいられなくなったら――。
人と妖の血がせめぎ合い、こちらへこいと綱を引く。まったく
この近くに
先に、
歩き始めてまもなく、岩に腰を下ろしている
その老婆が
ああ、なにゆえに。
かの
白き
嘆きの雨は
その華の名は
華を
「
思わず声をかけた晴明に、老婆はゆっくりと顔を上げた。その目は光を有してはおらず、晴明の視線と絡むことはなかった。
「どなた――ですかの?」
「いきなり声をかけ申し訳ない」
老婆は誰ぞを
「この唄はある日、聞こえてきましてのぅ。あなたさまには、聞こえなんでしたかの?」
老婆は晴明が
「いえ……」
「――それは残念じゃ……」
なにが残念なのか、老婆は多くは語らない。
ある日、かの唄は聞こえてきたという。
「まさに――この地にふさわしい」
光を宿さぬその目を細め、老婆は呟く。
化野は風葬地、数多くの
なにゆえ、自分はここにいるのか。
なにゆえ――と。
雨など降らずとも、秋になればここにも華は咲くだろう。
晴明は奇妙な老婆に
「この先はさらなる昏がり。気をつけるがよい。――安部晴明」
背に突き刺さる声に、晴明は
だがそこにあの老婆の姿はなく、青い彼岸花が風に揺れていた。
はたしてあの老婆は何者だったのか。化野に眠る誰かなのか、それとも
「昏がり? だから行くのではないか」
罠であろうと、行かねばならない。
陰陽師として――。
『晴明』
ふっと降りた
「
十二天将の一人・騰蛇は、宙に浮いた姿勢で腕を組んでいた。
『ああ。この先の
「大髑髏? あの大髑髏か?」
晴明はこれまで実際に
『場所が場所だけにいてもおかしはないが、なにかおかしくはないか?』
そう、なにかがおかしい。
大髑髏ほどの妖ならば、晴明の占いにも出る。だが今回、
それでいて、謎の声が晴明の耳に届くようになった。
なにゆえ――、そう問いかける声の意味はなんなのか。
もしかすると、
『
「ここで、ああそうですかと帰るわけにはいかん。何もかの罠だろうとだ」
晴明の決意に、騰蛇はふっと笑った。
◆◆◆
その寺は――、化野に
「
遅れてやってきた
「遅かったな?」
「すみません……」
大髑髏は文字通りの姿をしていた。
なにを食べたらそんなに大きくなるのか、地上にいる生き物は大髑髏を超えるモノはいないだろう。
黒く空いた
晴明は
「オン、アミリトドハン、バウンパッタソワカ!」
「まったく、あんなモノに
「保典どの、その
「人間、皮と肉を
確かに人は亡くなると、等しく同じ骨となる。
なれど――。
『なにゆえ……』
大髑髏が
「……?」
『なにゆえ……我だけがかような目に遭う。なにゆえ――……』
「晴明、どうした?」
大髑髏の嘆きが、晴明に流れ込んでくる。
それが漂う妖気の仕業だと気づいた時は、周りはふっと何もかも消えて晴明は冥がりにいた。軽く
周りは漆黒の闇である。隣にいた保憲も、
(まったく、なにゆえと嘆きたいのはこっちのほうだぞ?)
だが晴明には、見慣れた光景であった。
子供時代、自分で作り出して逃げ込んでいた冥がり。
どうやら強い妖気と
そんな晴明の前――、誰かが走ってくる足音があった。
何かに追われているのか、必死な童子が晴明に近づいてくる。はっきりしてくるその顔に、晴明は
その童子は、幼い頃の晴明自身だったからである。
幼い晴明はぶつかる寸前に、晴明の視界から消えた。
いや――、消えたのは。
『
冥がりの住人は、そう
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