第169話 Side - 16 - 3 - まめしばてりあ -

Side - 16 - 3 - まめしばてりあ -



「先生、おはようございます」


「あぁ、おはよう」


「今日のスケジュールの確認を・・・」




みなさん初めまして、私の名前は豆柴輝里亜(まめしばてりあ)、内閣総理大臣、騨志勝雄(だしかつお)の秘書官をやらせて頂いております。


ちなみに生まれた時からこのような愉快な名前ではありません、旧姓は川崎、川崎輝里亜(かわさきてりあ)、可愛らしい名前で自分としては気に入っていたのですが、たまたま結婚した旦那様の姓が豆柴という珍しいものだったのです・・・。


「・・・以上です」


「あぁ、分かった」


「先生、いつも総理大臣の後ろに立っている美女は誰だとネットやSNSで話題になっていますけど・・・」


「そう・・・」


「マスコミ各社からも取材をさせろと・・・問い合わせがいくつか来ております」


「・・・」


「どうします?」


「・・・悪いが全て断ってくれるかな、彼女は一応私の補佐だが一般人でプライバシーもある・・・とでも言っておけばいい」


「かしこまりました」


「・・・まだ何かあるのかね?」


「・・・はい・・・実は、彼女は先生の愛人ではないかと・・・週刊誌が」


ぶふぉっ!


あ、先生が飲んでたお茶を鼻から吹き出してしまいましたぁ。


「げふっ!、えふっ!・・・」


「大丈夫ですか先生・・・すぐにタオルを・・・」






「どうぞ・・・」


「ありがとう・・・」


「それで、週刊誌の方はどのように・・・官房長官も連日記者に質問されて困っているようで、先生の方で早急に対応して欲しいと・・・」


「・・・事実無根だと公表する、それでも記事にするというなら法的手段に出ると脅してくれ」


「かしこまりました、ではそのように」


「川崎くん・・・じゃなかった今は豆柴くんだったな・・・君は誰かさんと違ってとても有能だね、いつもありがとう」


「いえ・・・」








「さて、午前中は何事も無く・・・はないけど無事に過ぎましたぁ、お昼にしましょう!」


私は鞄からお自作のお弁当を取り出し、食べようとしたら首相官邸の秘書官室に着信音が響きました、いけない!、音を切り忘れてました。


「おぉ!、スターウォーズ、帝国軍のテーマだっけ?」


「ははは!、ダースベイダーが出て来る時のやつだ!」


あぅ、恥ずかしい、同僚の秘書官に笑われてしまいましたぁ!。


「し・・・失礼しましたぁ!、音を切ってなくて・・・」


「あぁ、輝里亜(てりあ)ちゃんのスマホかぁ、そういえば妹ちゃんは今話題の宇宙生物を研究してるんだっけ?」


「・・・あ・・・はい」


着信を見ると電話の主は妹の須華莉(すかり)ちゃんでした・・・。


「はい、なぁに?、すかりちゃん」


「わあぁぁん!、お姉ちゃぁぁん!、ツノの生えたウサギに指を噛まれたの!、血がだばぁって・・・」


「えぇぇ!、大丈夫?」


「うん、医務室で止血してこれから自衛隊の中にある病院に行くの、傷は大した事ないけど、エイリアンに噛まれたの私が世界初だって・・・精密検査・・・だから今日はお家に帰れないの・・・ぐすっ」


「えぇぇ・・・」


妹は昔から何か痛い事があると全部私に報告して来ます、転んじゃったぁ・・・とか、虫歯が痛いの・・・って・・・ふふふ、可愛いけど少し大袈裟、でも今回はちょっと大変な事態になってそう・・・。


「でもこのお話、私なんかに話していいの?、機密事項じゃないの?」


「あぅ・・・本当はそうなるんだけど、テレビの取材を受けてる途中でね・・・スタッフさんがうさちゃん抱いてもらえるかな?、って言うから抱き上げようとしたら噛まれたの・・・全国ネットの生放送・・・お昼の番組で私が噛まれて泣いてる所放送されちゃった・・・」


「わぁ・・・」


予想を超える大惨事でしたぁ!。


「ち・・・ちょっと待ってね!」


ぽちっ


慌てて秘書官室にあるテレビのリモコンを取り、電源を入れて選局します、もうすぐ午後1時のニュースが始まるの・・・。


「お昼のニュースです、今日12時頃、国立宇宙生物科学研究所の研究員がツノの生えたウサギ、通称「角兎」に噛まれると言う事故があり、たまたま取材中だった放送局のスタッフがその様子を・・・」


わぁ・・・午後1時のトップニュースだ・・・


「わぁぁぁん!、痛いよぉ!・・・」


「だ!・・・大丈夫ですかぁ!、大変だぁ!」


「逃げたぞ捕まえろ!」


すかりちゃん・・・相変わらず汚い泣き方だなぁ・・・ヨダレと鼻水垂れてるし・・・。


お昼休憩から戻って来た先生がテレビの画面をチラリと見た後、私に尋ねました。


「豆柴くん・・・この娘・・・」


「はい・・・お察しの通り、私の妹です・・・」


「・・・」


「先生・・・せめて顔にモザイクをかけてもらえるよう放送局に圧力を・・・」


「いや、こんな面白い・・・失礼、美味しい映像、誰が頼んでも無理だろう、それに今頃ネットで世界中に拡散されてるんじゃないかな」


「わぁ・・・」






今日のお仕事が一段落し、私は秘書官室で先生と一緒にニュース番組を見ています。


「安全対策に問題があったのではないかという声もありますが、佐藤先生のご意見は・・・」


「映像を見た限りでは猛獣用の防護手袋を着用しており安全への配慮はされていたかと、ただ・・・ウサギの牙がそれを簡単に貫通したようですね、宇宙生物にはまだ我々の予想を超えた危険が・・・」


「・・・地球の生き物に例えるならあの小さなウサギの噛む力はワニに匹敵する可能性があります・・・しかも歯の形は肉食獣のように鋭く・・・」


「ではもう一度事故の映像を確認して・・・」


「わぁぁぁん!、痛いよぉ!・・・」


夕方のテレビではまだ妹が噛まれた事故について、今度は専門家の先生?までスタジオに迎えて放送されています、しかもあの汚い・・・いえ、噛まれて泣いている可愛いお顔が何度も繰り返し放送されて・・・すかりちゃん、ごめんね、お姉ちゃんの力じゃどうにもならないよ・・・。


「今日はたまたま他に大きな事件や事故が無かったから・・・運が悪かったね」


「そうですね・・・」


「先ほどBouTubeを見たけどコラ画像が大量に出回っていたよ、妹さん、ちょっとした有名人だ」


「えぇぇ・・・」


「某国がミサイルでも撃ってくれてればここまで大きく扱われなかっただろうね」


「肝心な時に役に立ちませんね・・・」


「そうだよなぁ・・・」






「総理、まだ帰らないのですか、私お腹が空きました」


私の隣で静かにお茶を飲んでいた人物が口を開きました、まるで声優のような、透明感のあるとても良い声で・・・。


「星噛紗耶香(ほしがみさやか)くん・・・」






謎の女性、星噛紗耶香(ほしがみさやか)・・・彼女は先生の後ろ盾になっている星噛という家の関係者だそうで、常に先生と行動を共にしている事から私ともよく顔を合わせます。


「この人は何なのだろう?」


私は今でもこの女性が何者なのかよく分かりません、初めて会ったのは星噛家の使いだと言って前の事務所に尋ねて来た時・・・その数日後から先生と一緒に行動するようになりました。


背が高く胸は控えめだけどスレンダーな体型というのでしょうか?、スタイルがとても良い・・・顔立ちも整っていて誰が見ても美人だと言うでしょう、高価そうなスーツを着こなし、仕事のできる女性という印象・・・。


「えーと、先生、この方は?・・・」


私は先生に彼女が何者なのか尋ねた事がありました・・・でも。


「こいつ・・・いや、この人は星噛紗耶香(ほしがみさやか)くん、仲良くしてくれたまえ・・・ははは」


乾いた笑いと共にこう言われた時もあれば・・・。


「人畜無害だから気にしなくてもいいよ」


そっけなくこう答える時もあります・・・。


何かお仕事をしているのかと言えばそうでもなさそう・・・ただ先生の後ろをついて歩き、会見や報道陣の前に立つ時には姿勢よく先生の斜め後ろに立っている・・・。


同僚の秘書官にも彼女について聞かれたのですが・・・。


「さぁ・・・私にもよく分からないのです」


としか答えられないのです。


立ち居振る舞いはとても上品で洗練されているからもしかすると良い所のお嬢様?、でも先生といつも一緒に行動している理由が分かりません。


「もしかしたら凄腕の護衛・・・S Pなのかも」


すでに先生には男性のS Pさんがついているのですが他に思い浮かぶ職業はこれしかありません、そうです!、先生は腐っても一国の総理大臣、どこで誰に狙われるか分からないのです!。


でも・・・先生が廊下を歩いていた時、急に扉が開いてお部屋から人が出て来た事があったのです、先生とぶつかり2人とも倒れました、男性S Pさんが慌てて先生の方に向かいます、でも・・・彼女は転んで痛そうにしている先生をただ無表情で眺めているのです。


「もしかして・・・相手に殺意がないと動かないのかな」


映画で見た事があります、超一流のS Pは常に冷静沈着、無駄な動きはしないのです、殺意が向けられて初めて身体を動かし警護対象を守るのです!。


「いいなぁ、映画みたいでかっこいい!、先生に何かあるのは怖くて嫌だけど、いつか彼女が先生を守る所、見られるといいな・・・」









コンコン・・・


「はぁい」


ガチャ・・・


「あ、モルダ博士!・・・と、・・・ひっ!・・・れ・・・礼久田(れくた)博士・・・」


「やぁ、大変だったね川崎くん」


「須華莉(すかり)とお呼びください!」


「川崎くん・・・」


「ス・カ・リ!です!」


「・・・スカリくん」


「はいなんでしょう!、モルダ博士!」


「今日の夜はここで過ごしてもらって、明日には帰れるそうだ、あと、労災も下りるから落ち着いたら総務課と相談してね」


「はーい」


「ククク・・・気分はどうだね、スカリーくん・・・」


「ひぃっ!・・・ご・・・ごめんなさいごめんなさい!、迷惑かけてごめんなさい!」


「礼久田室長、うちの川崎くんを揶揄うのはやめてくれないかな、怖がってるし」


「フフッ・・・別に捕って食おうとしてるわけじゃない、世界で初めてエイリアンに齧られた気分はどうかなと・・・興味があったのだよ・・・」


「れ・・・礼久田(れくた)博士・・・、病院に居ると余計に凄味が増して怖いです!」


「正直な娘だね、・・・気に入った、今度新鮮な肉と内蔵を食べに連れて行ってあげよう・・・」


「焼肉ですか・・・」


「ククッ・・・とても美味いぞ、ちなみに私の奢りだ」


「はい、行きます!」


「それから・・・あのウサギの歯、防護手袋を貫通するとは思わなかった、しかも噛む力があれほど強力だったとはね・・・生態観察をしていた第1生物研究室の不手際だ、申し訳なかった、・・・指ではなく頸動脈をやられていたらと思うと・・・本当に危なかったよ・・・」


「いえ・・・私も可愛い姿に騙されて油断していました、ご迷惑をかけて本当にすみませんでした」


「スカリくん、精密検査で疲れただろう、今夜はゆっくり休みたまえ、明日の昼頃迎えに来るからね」


「あ、それからモルダ博士!、私、恥ずかしい姿を撮られて全国に晒されちゃいましたぁ!」


「言い方・・・」


「あの時すごく痛くて・・・思わず泣いちゃったし鼻水垂れてたから恥ずかしいの、生放送だったけど配慮してお顔にモザイクかけてくれてるといいな・・・」


「(生放送では流石に無理だぞスカリくん)」


「(うむ・・・すでにモザイク無しで世界中に拡散されているな)」

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