第170話 Side - 16 - 4 - そうりのじゅうごふんくっきんぐ -

Side - 16 - 4 - そうりのじゅうごふんくっきんぐ -



バタン・・・


「ふぅ・・・疲れた」


首相官邸と同じ敷地内にある公邸に戻った私はため息をついた。


ここは首相公邸、総理大臣となった私は議員宿舎に住むか公邸に住むか選択できた、私としては「近くて便利」という理由から公邸にしたのだがどうやら幽霊が出るという噂があるらしい。


いや、幽霊など居るわけないし!、こ・・・怖くなどないぞ!。


一人で住むのだから別にどこでも良かったのだ、妻には15年前に先立たれた、元々身体が弱い人だったから覚悟はしていた・・・。


息子と娘が居るがすでに成人して独立している。


他の家族に関しては・・・元副大臣の祖父は健在だ、痔の手術をして先ごろまで入院していたが今は退院している、父母も元気だ、それから妹が一人居て旦那と離婚し香川県にある長く空き家になっていた母の生家に子供達と一緒に戻っている。


「総理、帰るのが面倒くさいです、泊めてください」


私の後ろをついて来ていた星噛紗耶香(ほしがみさやか)が口を開いた、最近毎日のように泊めろと要求して来る・・・こいつは何で図々しく私のプライベートスペースに入りたがるのだ?。


「ダメだ、早く帰りなさい」


「えぇ・・・」


「えぇ・・・じゃないよ、君だって私と変な噂が立ったら嫌だろう」


「だって・・・お祖父様が・・・」


「離伯(りはく)殿がどうしたの?」


「・・・いえ、なんでもないです」


言いかけたのなら最後まで言ってくれ、とても気になるのだが!。


くぅぅ・・・きゅるる・・・


「あぅ・・・」


でかい腹の音だな、星噛紗耶香(ほしがみさやか)が顔を赤くして俯いた、一応こんな奴でも恥じらいはあるのか・・・。


「お腹が空いたのかい?」


こくり・・・


頷いた、どうやら空腹らしい、そういえば彼女は私のところに来るようになってから都心のでかいマンションで一人暮らしをしていると言っていたな、昼には毎日コンビニで買って来たようなサンドイッチを2個食っている。


「ちゃんと食べているのかね?」


・・・こくり


頷いたが目が泳いでいる、嘘だな、私は腐っても政治家だ、これくらいはすぐに見抜ける。


「・・・今日の夜は何を食べるつもりなのだ?」


「・・・赤いきつね」


「は?」


「カップうどんの赤いきつねを食べようと思っています」


「何でだよ!」


「・・・袋に入ったインスタント麺を頑張って作ろうとしたけど美味しく出来ませんでした」


「いやそうじゃなくて!」


こいつの料理スキルはどうなってるんだ?、インスタントの袋麺なんて誰でも作れると思っていた私が間違っていたのか?。


「あぅ・・・ぐすっ・・・」


いかん、つい言葉がキツくなった。


「離伯(りはく)殿から生活費はもらっているのだろう?、うちからも給料が出る筈だが?」


「お金ならあります」


「金があるなら外食すればいいだろう」


「・・・いの」


「何だって?、よく聞こえなかった」


「一人で飲食店に入るのが怖いの・・・うちの近所は高くてお上品な料亭みたいなお店しか無いし・・・居酒屋は騒がしくて嫌い・・・スーパーのお弁当は10日続けて食べたら飽きたの」


ダメだこいつ、早く何とかしないと。


「今まではどうしていたのかね?」


「星噛の別邸で料理人さんが美味しいお食事作ってくれてたの・・・うりゅ・・・一人暮らしなんてできない・・・お家帰りたいよぅ・・・」


食事がこの惨状なら・・・まさか・・・。


「掃除や洗濯はしてるのか?」


フルフル・・・


「し・・・してるもん」


してないな・・・こいつ生活能力ゼロだ・・・あのクソジジィ、こんなのを押し付けやがって。


「ぐすっ・・・ひっく・・・ごめんなさい・・・何もできなくてごめんなさい、生活能力ゼロでごめんなさい・・・」


うわぁ・・・面倒臭ぇ・・・。


「そこのロビーで待っていなさい、そうだな・・・15分ほどかかる」


「はい・・・」







私は公邸のプライベートスペースに入りキッチンに立った。


バタン!


じゃぁー


ふぉぉぉぉぉぉ・・・チーン!


ガコッ・・・チリチリ・・・じゅわぁぁぁ・・・


トントントントン・・・


サクサクサク・・・


ジャァ!・・・ジャァ!、・・・じゅわわわわ・・・


じゅぅぅぅぅ・・・


つめつめ・・・


・・・


「ふぅ・・・こんなもんか、我ながら美味そうに出来たぞ」


今日はろくな材料を用意していなかったから少し冷凍食品を使ったが立派な弁当が完成した、弁当箱など無いからタッパーに詰めている。


シュウマイと紫蘇入りパスタ、野菜炒めにレタス、それから焼豚入り焼飯だ!、女性だからそれぞれの分量は若干少な目にしておいた。


「だが・・・あいつ・・・もの凄く食いそうな気がしてきたぞ、いや、そこまで私が世話をする義理は無い、足りなければ自分で何とかするだろう・・・多分」


自分用に飯は炊いてあったし、私の夕食を作るついでだからそれほど手間ではない、学生時代は飲食店でアルバイトをしていた。


それに妻の身体が弱かったから娘や息子の弁当は私が作っていたのだ、私の料理歴は長い。


コツコツ・・・


バタン!


「だらしない・・・」


私が待っているように言ったロビーのソファに星噛紗耶香(ほしがみさやか)が座っている・・・白目を剥き口を開けて爆睡しているな・・・美人が台無しだ・・・、ロビーに立っている警備のお兄さんも呆れて見ているぞ・・・。


「起きなさい、こんな場所で寝たらダメだ」


「むにゃぁ・・・もう食べられないにょ・・・」


「おい!」


「ひゃい!、・・・総理、おはようございます」


「・・・」


「あ・・・なんか良い匂いがします!」


「ほら、持って帰って冷めないうちに食べなさい」


「これは?」


「弁当だ、今日は冷凍食品が多いが予定外だったので我慢してくれ、カップ麺よりはマシだろうし、栄養的にも問題ない筈だ」


「わぁ・・・総理・・・作ってくれたんですか?」


物凄く嬉しそうだ、こんな事で喜ぶなよ・・・。


「ほら君も仕事で疲れて・・・は無いか、・・・とにかく早く帰って休みなさい」


「はい!、ありがとうございます総理!、ではお疲れ様でした!」


とてとて・・・





「・・・はぁ、何で私があのニートの弁当を作らなきゃならんのだ・・・」


私はプライベートスペースに戻り、自分の夕食を食べ始めた。





「総理、昨日はありがとうございました、とても美味しかったです!」


翌日、ご機嫌そうな笑顔で星噛紗耶香(ほしがみさやか)がタッパーを返して来た、紙袋の中を見ると・・・予想していたが油でベトベトだ・・・。


よく見ると洗ってはいるようだが・・・何故洗剤を使って洗わないのだ!、いや、そもそも奴のマンションに洗剤は置いてあるのか?・・・。


「豆柴君に頼んで一度あいつの部屋を見に行って貰った方がいいか・・・いや、彼女のプライベートに干渉するような事は・・・って!、何で私がこんな事で悩まねばならないのだぁ!」











「にゃー」


コツッ・・・


「Hey Golgo・・・come here・・・eat Churu・・・meow・・・meow」


「にゃぁ!・・・」


なでなで・・・






ポロン・・・


「・・・」


”Order・・・Black owl・・・The assassination target is・・・Katsuo Dashi・・・prime minister of japan・・・”


「にゃぁぁ!」


「Was delicious?」


「にゃー」


なでなで・・・


「It's not there anymore・・・」


「にゃ?・・・」





「I don't like it・・・」





ポロン・・・


「?」


”Wait for contact・・・This message will automatically disappear・・・just kidding haha!・・・”


「・・・」


「・・・What is this message that my boss always sends at the end?」


「にゃぁ・・・ごろごろ・・・」


「Well, i guess i'll buy a Mos burger too・・・」






ガチャ・・・


「いらっしゃいませ!」


「・・・スパイしぃ・・・もすバーガぁふたつ・・・もすチきん・・・いちこと・・・こぉらのえむ・・・モチかえりデ・・・オネ・・・おねガイしマス!・・・Is this okay?」

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