第163話 Side - 15 - 89 - ほしがみけのいちぞく -

Side - 15 - 89 - ほしがみけのいちぞく -



「紗耶香(さやか)!」


「・・・ひぅ・・・な・・・何でしょうかお祖父しゃま・・・」


「・・・後で話がある!」


「・・・あぅ・・・」


「・・・」


「・・・」


「いつまでそこで立っているのだ、入って座りたまえ」


「し・・・失礼します」


私が案内された場所は8畳の和室、中央には重厚な座卓が置かれ肘掛け付きの座椅子が人数分・・・調度品は全て高価そうなもので揃えられている、これだと私の目の前にある座布団まで高そうな気がするな。


上座に星噛離伯(ほしがみりはく)氏が居る、先に座卓を挟んで下座に私が座り、続いて私の右には涙目で震えている星噛紗耶香(ほしがみさやか)、左に謎の外国人少女が座った。


「まずは就任おめでとう」


全くおめでたく無いのだが!。


「・・・ありがとうございます、支援頂き感謝しております」


「今後は星噛家との連絡係として孫の紗耶香(さやか)を側に付けてやる、間もなく総理大臣公邸に引っ越すのだろう?、何かと不便な事もあろう、こき使ってくれ」


「お・・・お祖父様!、私聞いてません!」


「言えばお前は逃げるだろう!、いつまでも家に引き篭もりおって!、少しは自分の生活費くらい稼げ!」


「・・・うぅ・・・だってぇ・・・働きたくないの・・・」


「口答えするな、これは決定事項である!」


「・・・ぐすっ・・・ひっく・・・お祖父様ぁ・・・」


星噛紗耶香(ほしがみさやか)・・・スーツが似合っていたから仕事の出来る女性に見えたのだが・・・引き篭もりニートだったのか・・・。


「お前とて料理や掃除くらいは出来るだろう!」


「・・・うぅ」


「何故目を逸らすのだ、出来るのだろう?」


「・・・あぅ」


フルフル・・・


「紗耶香(さやか)・・・お前まさか・・・」


「・・・で・・・出来るもん・・・」


あ、これできないやつだ。


「うむ・・・では秘書の手伝いを・・・」


「あの!、優秀な秘書が居るので間に合っています!」


「車の運転手なら・・・」


「すでに1人雇っています!」


「ぐぬぬ・・・」


このクソジジィ・・・まさか引きこもりのニートを私に押し付けようとしてるのか・・・。


「・・・こ・・・此奴は引きこもりだが顔だけは良い、見栄えはするであろうからとにかく黙って側に立たせておくのだ!」


「うりゅ・・・ぐすっ・・・無能でごめんなさい・・・何もできなくてごめんなさい・・・彼氏居た事なくてごめんなさい・・・引きこもりでごめんなさい・・・」


こいつ・・・面倒くさい性格だな、引き受けたら大変そうだ、何とか断れないだろうか・・・。


「わ・・・私は15年前に妻と死に別れて今は一人暮らしです、娘ほどの年齢の女性が意味もなく側に居るのは世間体が・・・」


「間違いがあればそれはそれで都合が良い・・・いや!、何でもないぞ!、そのような噂が出たとしても我が星噛家の力で揉み消してくれるわ!」


今都合が良いって言ったぁ!。


「おほん!、さて話を戻そうか・・・今日来てもらったのはな・・・」


こいつ話を誤魔化しやがったぞ!。


「日本国の総理大臣に就任した者は我が星噛(ほしがみ)家、或いは薄刃(うすば)家の当主と会い、この国が秘匿している事項について説明を受けるのだ」


「薄刃家?・・・」


「そこから説明せねばならぬか?、ある程度の地位がある者は知っておるのだが・・・まぁいい、この国は古くから2つの家、星噛(ほしがみ)と薄刃(うすば)が金と権力を持ち支配している、もちろん皇室は両家の上にあるのだがな」


「何と・・・」


「心配するな、こちらの都合で介入する事はあるが政治に煩く口出しはせぬ」


「・・・」


「この両家はとある目的の為に存在している、だがそれは日本が危機に瀕した時に助ける為では無い」


「・・・」


「星噛(ほしがみ)家と薄刃(うすば)家は平安時代に活躍した陰陽師を祖としている、祖先はまず星噛(ほしがみ)を興した、だが家が大きな力を持ったが故に跡目争いが起き権力に溺れ、時折暴走した、その暴走を止める為、新たに同格となる家・・・薄刃(うすば)を興したのだ、以来両家はお互いを監視し合うようになった」


「・・・」


「平安、鎌倉、江戸と時代の流れと共に家は大きく成長した、あまりに強大になり過ぎた両家は皇室と話し合い表世界から完全に姿を消し陰に潜む事にした、元々祖先である陰陽師が皇族と親しい関係にあったので話はすぐに纏まった」


「・・・」


「長く鎖国していた日本が開かれた時にも両家はいち早く海外に進出した、我々は宝石をはじめ貴金属を豊富に都合できた故、それを土産に欧州の王族に取り入り、利用し、巨額の財を築いた」


「・・・」


「二度の大戦の折にも両家は政治に口出ししなかった、たとえ日本が焼かれようとも我々が動く理由にはならない、戦時中は海外に留まり日本の行く末を静かに眺めておった、両家の主(あるじ)が動けば戦を避けられた可能性は僅かにあったが・・・主(あるじ)は関わりたくないと仰っておられたようなのでな」


「・・・」


「戦後は再び日本に拠点を移し、投資や不動産を主な生業にして今に至る・・・ちなみに現在首都圏及び地方都市における商用地の4割は両家で所有している、所有者名義は巧みに隠蔽しておるがな・・・」


「・・・これ程影響力のある家が今まで全く知られていなかったとは・・・とても信じられません」


「意図して影に潜んでおったからの、噂が立てば我が家の権力全て使って握り潰した、決して表に出ぬのはこの家を作った我が先祖・・・主(あるじ)の意向によるものよ」


「まさか私が総理大臣になったのも・・・」


「君が以前所属しておった政党が分裂したのは自業自得よ、汚職が暴かれ国民からの支持を失った・・・ただの偶然で我が家は関与しておらぬ、だが・・・とある理由で我が家が動かねばならぬ案件が出ての、空席となった総理大臣の地位に就く者が老獪な政治家では扱い難いと考え、君を総理にするよう仕向けたのは儂だ」


「私は扱い易いと・・・」


「悪い意味ではないぞ、実直で汚職とは無縁、過去に騒がれるような失言も無い、叩いても埃が出ない今時珍しい政治家・・・、儂はそれを評価して君を選んだ、うまくやれば長期政権が望めそうだの、今後は君の政治手腕次第だが・・・」


「・・・」


「星噛家は君の後ろ盾だ、困った事があれば遠慮なく頼りたまえ、代償は我が家の目的遂行の為に少しばかり協力して貰う事だ」


後ろ盾になる代わりに何か協力しろという事か・・・何をさせられるのだろう・・・。


「・・・分かりました」


「さて、ここからは歴代の将軍や総理大臣にも話しておらぬ我が一族の秘密を話す、他言すれば命は無いと思え、もし・・・どうしても聞きたくないのならこのまま帰れ、命だけは取らずに居てやろう」


どっちも嫌なんですけど!。


「・・・も・・・申し訳・・・」


「よく聞こえんなぁ!、歳で耳が遠くなったようだ、もう一度言うてくれぬか!」


「・・・お聞きします」


このジジィ怖過ぎるだろ!、この場で帰れる雰囲気じゃないぞ!。


「そうかそうか、聞いてくれるか!、断られたらどうしようかと思ったわい!、では言うぞ!」


「遥か昔、こことは別の世界で生まれた我が祖先・・・主(あるじ)は魔術を用いて古代日本に転移した、そして当時の政治経済に深く関わった、権力者に目を付けられ度々利用された祖先は権力者に対抗すべく子孫と共に力を持つ家を作った、それが先程話した星噛(ほしがみ)家であり薄刃(うすば)家なのだ」


「は?」


「まぁとても信じられまい、だが最後まで聞くのだ」


「・・・」


「我が祖先は不老不死であり、時の権力者と対立し都を滅ぼした事もあった、だが近代になると祖先が表に出る事も無くなった、元々両家は祖先が平穏に過ごせるようにと蓄えていた莫大な資産と権力で作ったものではあったが、今はその役割を終え、それぞれが独立し資産運用や権力の使用は当主の裁量に任せられている、もちろん祖先とは非常に良好な関係にある」


「不老不死・・・」


「信じられぬだろうな、だが君は先程体験した筈だ、東京にある星噛家別邸から一瞬で転移し、京都にあるこの本邸に来たであろう」


「はぁ!、京都ぉ!」


「スマホは持っているか?、そうか、では今君が居る場所を確認してみるといい」


私は慌ててスマホを取り出し、現在位置を確認した・・・。


「京都・・・北山・・・」


嘘だろ何で私は京都に居るのだ!。


「まだ信じられぬようだの、だがここは紛れもなく京都よ、後で屋敷の周りを散策するといい」


「・・・」


「さて、まだ信じぬか?、では我が祖先の生まれ故郷をその目で見て来るといい、アメリア様・・・」


「大丈夫だから驚かないで」


私の横に居る謎の外国人少女が話し掛けてきた。


ぱぁっ


「うわ眩しっ!」


また謎の光か!、光に目が慣れると・・・。


「何じゃこりゃぁ!」


路地のようなところに立っている私の目の前には・・・中世ヨーロッパとスチームパンクが混ざったような街並みが広がっていた・・・。


「靴を持って来てないよね、このサンダルを使っていいよ」


「はーい!、本当に異世界だぁ!、凄い!」


呆然とする私の隣で何故か一緒に居る星噛紗耶香(ほしがみさやか)が能天気にはしゃいでいる、私は今それどころではないというのに・・・。


「こっちに来て」


謎の外国人少女が私を手招きした、路地から数歩先には石畳の敷かれた大通り、ヨーロッパの民族衣装のような服を着た人達が行き交い、路面電車のようなものが走っている、スマホを確認すると圏外・・・ここはどこだ!、思考が追いつかないぞ!。


行き交う人に紛れて進む私達・・・私の歩いている横には大きな歯車の付いた機械仕掛けの噴水がある、落ち着かないな。


「あの・・・私たちの服・・・浮いていないでしょうか」


そう、私と星噛紗耶香(ほしがみさやか)はスーツにサンダルという姿なのだ。


「大丈夫、幻術を使っているから周りの人達は君達を見てもおかしいとは思わないのだ」


よく分からない事を言われた・・・。


「星噛(ほしがみ)さん・・・君は大丈夫なのかな・・・」


「はい!、お祖父様からお話を聞かされてたから・・・私もいつか来てみたいと思っていたので嬉しいです!」


「何故彼女まで一緒に?」


「あぁ・・・離伯(りはく)くんから孫が行きたがっているからいつか連れて行って欲しいと頼まれていたからね、いい機会だと思ってついでに転移させたのだ」


「離伯(りはく)くん・・・あの恐ろしい爺さんを「くん」付け・・・」


「さて・・・おじさーん!、肉串3本ね!」


「はいよお嬢ちゃん、焼き上がったばかりだ」


謎の外国人少女が屋台でいかつい親父から串焼きのようなものを買っている、使っている言葉はよく分からない・・・そして私達の方に串を笑顔で差し出した。


「そこのベンチで食べながら話そう」


異世界と言われたこの場所は公園で、普通に木が生えており、ベンチも大理石のような石だが細かな美しい彫刻がされている、串焼きを受け取って座った私達に謎の外国人少女が喋り始めた。


「初めまして騨志勝雄(だしかつお)総理、私の名前はアメリア、普段はこのローゼリア王国と日本で姿と名前を変えて暮らしている、先程、星噛(ほしがみ)の当主が言っていた祖先というのは私の事だ、私は遥か昔、転移魔法を使って日本にやって来た、それからの事は離伯(りはく)くんから説明された通りだ、あなたが信じていないようだからここに連れて来た、これで信じてくれたかな・・・あ、冷めないうちに肉串食べて」


私は肉串に齧り付いた、うまい!、牛肉っぽいが普段食べている物より野生みがあるし、香辛料が使われていてスパイシーだ・・・。


「美味い・・・」


思わず正直な感想が口に出た、私の横で星噛紗耶香(ほしがみさやか)がスーツに肉汁が垂れたと叫んでいるが無視する、謎の外国人少女は微笑み、更に言葉を続けた。


「私は日本に転移して、平安時代に日本人男性と結婚して子供を2人産んだ、その子孫が星噛(ほしがみ)家と薄刃(うすば)家、正確にはもっと沢山分家があるのだけど、あの2つの家は私が日本で平穏に暮らす為に作ったのだ、私に群がって来る権力者を黙らせようと強くしていたら大きくなり過ぎて扱いに困ってね、今は当主に丸投げ状態だ」


「・・・」


「ちなみに両家とも事業は順調でかなり稼いでいる、主に不動産と金融投資だね、違うのは・・・薄刃(うすば)の方は国内外の極道やマフィアの中枢に人員を送り込んでいるから、そちら系の困り事は薄刃(うすば)家を頼れば解決すると思う、でも怒らせると恐ろしいのは星噛(ほしがみ)の方だね、言わなくても分かってると思うけど期待を裏切らないでね」


「・・・」


「私からの「お願い」を聞いて貰って・・・今の案件が片付いたら薄刃(うすば)の方にも挨拶に連れて行ってあげよう、この2つの家を味方に付けた貴方は無敵だ」


知らない間に私は無敵の人になっていた!。


「肉串食べ終わったようだね、今起きている事が夢だと思われても困るからその串は日本に持って帰っていいよ、じゃぁ帰ろうか」


「えー、アメリア様ぁ・・・もっと居たい・・・あそこに見えるお城にも行きたいの」


「紗耶香(さやか)ちゃんは離伯(りはく)くんから言われたお仕事をきちんとやれたらまた連れて来てあげよう」


なでなで・・・


待て!、この引きこもりニートを私の所で引き取るのは決定事項なのか!。


「うん、頑張る・・・」


本当に待ってくれ!、頑張らなくていいから!。

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