第164話 Side - 15 - 90 - ぶらざーず・おぶ・まーきー -

Side - 15 - 90 - ぶらざーず・おぶ・まーきー -



ジャーン!


「フハハハハ!、我が召喚に集いし下僕共よ・・・また次のサバトで会おう、さらばだ!」


「きゃー、マーキー!」


「ショウくんかっこいい!」


「うぉぉぉぉ!カオルー!」


「わぁぁぁ!、かっこいい!、ママさんかっこいいよ!」


「あぁ、思ってた以上に演奏力あったな、歌詞は痛いが・・・、それに対バンしてた連中も良かった」


「痛い?・・・歌詞が・・・痛い?」


「いやコナンザくんは気にするな、さて私達も物販買って帰ろうか、アンコール5回は流石にやりすぎだろあいつら・・・」


「僕、Tシャツ欲しいんだぁ、買えるかなぁ」


「そういえば開場前の物販無かったよな、どうしたんだろ」


「隣に居たお兄さんが言ってたけど、いつもブッパン?してる担当の人が風邪だって」


「そうなのか」


「うん、それにしても、僕初めて来たけど・・・らいぶはうす?、暗くて狭くて落書きや貼り紙いっぱい・・・でもみんな楽しそう」


「初めてがこんな小汚いスタンディングのライブってのはどうなのかって思ったんだが、地方の小さいところはだいたいこんな感じだからなぁ」









「ふぅ・・・疲れたな」


「うん・・・私5回もアンコールするなんて聞いてない、翔勇(しょうゆう)兄さん無茶し過ぎ」


「今日はお客のノリが良かったから思わず出て行ったんだよ、やれる曲は沢山あるから大丈夫だと思った」


「もう少しボーカルの事も考えろ、最後の方、真希(まき)の声枯れてたぞ」


「すまん、次から4回にする・・・」


「いやそうじゃなくて!」


「ほら汗拭いたら物販の方に行くぞ、今日はヒデさん風邪で居ないんだから」


「新作Tシャツいっぱい売れるかなぁ、売れるといいな」


やぁみんな、初めまして、俺の名は騨志薫(だしかおる)、弟の翔勇(しょうゆう)、妹の真希(まき)と一緒にバンドをやってる。


結成して6年、当初は未成年だった俺達も今では全員成人した、今日は地元香川県のライブハウス「イマジノス」でのライブが終わり、ツアーの中盤を折り返した所だ。


ツアーと言っても俺達はレーベルと契約してないし、みんな別に仕事を持っている、アルバムの制作もライブハウスの手配もツアースケジュールの作成も全て自分たちでやっているアマチュアバンドだ、しかも一ヶ月に一度か二度、中古のハイエースに機材を積み込み近隣の県でライブ活動をしているだけの小さなバンド・・・。


だが俺達はデビュー当時から熱狂的なファンを抱えている、このバンドの音楽性に惚れ込んでくれたコアなファンで忠誠心も高い、ライブには毎回お馴染みの顔が集まってくれるし気軽に声もかけてくれる、ありがたい事だ。






「これのLサイズくださいなー」


「ククッ・・・布施は二千円だ、早う寄越せ・・・」


「はい、五千円」


「なんと!、貴様!我に釣りを出せと申すか!・・・・ぬぅ、仕方のない下僕よの、ほれ三千円、平伏して受け取るがいい」


「次のライブ・・・じゃなくてサバト楽しみにしてまーす、お疲れー」


「うむ!、良い心がけだ、次も必ず我の召喚に応じるのだぞ」


「ははは、マーキーさん相変わらずキャラ濃いなぁ、じゃぁね」






「・・・あの」


「おや、美味そうな銀髪娘よの、さぁ申せ!、我に何を望む?」


「ママさん、言葉難しくてわかんない・・・ぐすっ」


「可愛いお嬢さん、何にしますか・・・って言ってるんだろ、多分」


こくこく


「ほら合ってた、頷いてる」


「今まで出てるCD全部と、Tシャツ・・・これと、これの一番小さいのください!、それと、僕ライブ初めてだけどすごく楽しかったです!」


「へ・・・あぅ・・・お・・・おぉ!、なんと強欲な娘ぞ!、経典全てを欲するか!、だが良い忠誠心ぞ褒めてやろう・・・法衣はこれで良いのだな!、熟考せよ!、選びし法衣が貴様に相応しいか!、二度と後戻りはできぬぞ!、そうか・・・ククク・・・全部で布施は・・・おぉ!何と恐ろしい事よ!、一万二千円ぞ!」


「あぅ・・・ほうい?・・・ごうよく?・・・ママさん・・・」


「あー、・・・いっぱい買ってくれてありがとう、CD全部とTシャツですね、サイズはこれでいいか確認してください、返品できませんので気をつけて・・・一万二千円だけど大丈夫?・・・って感じだろうな」


こくこくこくこく


「正解みたいだ」


「はい、一万二千円です、お姉ちゃんに貰ったお小遣いなの!、BouTubeで聴いてすごくかっこよかったからママさんに頼んで連れてきて貰ったの、お家に帰ってママさんやお姉ちゃんと一緒にCD聴くの!、あと僕は男だよ」


「ぐっ・・・貴様聖女ではなく勇者であったか!、ぬぅ!、一生の不覚!、死を持って詫びるところであるが我には使命がある故!、印を刻みし呪符で我が重き罪洗い流せるや?」


かきかき・・・さっ


「これは少し難しいぞ・・・男の子でしたか、女の子と間違ってごめんなさい、私のサインをあげるから許してくれるかな?・・・正解か?」


こくこく


「正解らしい!」


「わぁ・・・サインもらっていいの?」


こくこく


「ありがとう!、国に帰っても大切にするね」






「次の下僕よ待たせたの近う寄れ、貴様は我に何を欲す!、なっ・・・なんとぉ!、法衣は不要と申すかぁ!」


「最近バイトクビになっちゃってさぁ、金ないんっすよ、新作CD買うだけで精一杯、マーキーちゃんが笑顔を見せてくれたら考えてもいいな」






「あぁぁぁ・・・疲れたぁ、Tシャツそんなに売れなかったね・・・」


「ほら早くしろ、撤収するぞ、遅れると怒られる、ここのオーナー時間にうるさいんだから」


「待って・・・着替える・・・」


「着替えてる時間無い、機材は物販の間に薫(かおる)兄さんが車に積み込んだからこのまま出るぞ!」


「裏に車あるの?」


「このハコの裏は駐禁だから長く駐車できないだろ、もうパーキングに移動したからそこまで歩きだ」


「うぇぇぇ!、この格好で夜の商店街歩くのぉ!、待って!、やだよ!、せめて何か羽織らせて!、時間が押したの兄さんがアンコール5回もするからでしょ」


「それは謝るからとにかく急げ!、服も全部車に撤収済みだ、とっとと歩け!」


「わーん!」






ぶろろろろ・・・


「うっく・・・ひっく・・・居酒屋帰りのおじさん達にガン見された・・・写真も撮られた」


「あははは、あそこ飲食店多いからなぁ、時間遅いからそんなに人居なかったのがまだ救いか」


「せめて上着だけでも置いておいてよ・・・なんで飲み屋街をゴシックドレス着て歩かなきゃならないの・・・兄さん達はいつの間にか着替えてるし」


「赤いカラコンに牙まで付けてるからな、そこは設定通り歩いてる人に「貴様の血を寄越せ!」ってやろうぜ」


「やだよ、まるで私不審者じゃん、この格好で交番に連れて行かれたら大惨事だよ!」


「そう言えば今日のライブ、気付いたか?」


「あぁ、場違いな記者みたいなのが3人居たな、1人はスマホで動画まで撮ってた」


「はぁ・・・勝雄(かつお)伯父さんの影響かな」


「多分な、総理大臣の甥や姪が変なバンドやってる!、ってマスコミが喜びそうなネタだもんな」


「周りが静かになるまでしばらく活動控えた方がいいか・・・別に悪い事してる訳じゃないが・・・あっちに迷惑がかかるかもしれないからな」


「・・・やだ」


「でもなぁ・・・」


「あ、でも聞いて!、物販に超可愛い銀髪の男の子が来てくれたの!、デビュー作から最新作までCD全部買ってくれたんだよ!」


「あぁ、俺も機材運んでる時に話してるのが見えた、西洋人形みたいだったよな、あれで男ってどうなってんだよ」


「それに一緒に居た保護者の女性がやたらと私の言ってる事理解してくれるの、完璧に翻訳して男の子に伝えてるの!」


「マジかよ、古参のファンでも何言ってんだよこいつ、みたいな顔するのに・・・」


「BouTubeで私たちを見て来てくれたんだって、ふふっ・・・嬉しいな・・・」






ぶろろろろ・・・


「ねぇ、兄さん、私おしっこしたい」


「仕方ないな、コンビニで休憩するか」


「お前それでコンビニ入るのか?」


「飲み屋街歩いて羞恥プレイした後だからコンビニくらいなら大丈夫かな、でも流石に上は何か羽織るよ、田舎だしこの時間だと店員さんくらいしか居ないでしょ」


「通報されないか?」


「大丈夫だって、ぱっと入って、お手洗い済ませて、何か買って出て来るだけだから」


ぶろろろろ・・・キィ・・・


「あ、1台車停まってるね、シビックTYPE-R・・・」


バタン・・・


とてとて・・・


ピンポーン・・・ピンポーン・・・


「らっしゃっせー」


「ふん、ふん、ふふーん!、おトイレー、おトイレー、どーこかな・・・っと」


「あ・・・マーキーさん」


「君はさっきの・・・じゃなくて!、なんという闇の導きか!、また会ったな我が銀色の下僕よ!、フハハハハ!」


ジャァー・・・ガチャ・・・


「コナンザくんお待たせ・・・ってあれ?、ブラザーズのマーキーさん?、どもお久しぶりっす」


「ひっ!・・・ケイオスDGの龍之介くん・・・」


「あれ?、さっきのゴスロリボーカルちゃん?、あんた普段もそんな格好してんのか?、やばいな、キャラが濃過ぎるぞ」


「マーキーさんもお手洗い?」


「い・・・いや、我は時折魔力が不安定になる故、狭い部屋にて瞑想し内なる暗黒の魂を鎮めるのだ!」


「なるほど・・・それでお手洗い、魔力をうまく循環させるのって大変だもんね、頑張ってください!」


「あーお客様ぁー、当店のお手洗いで宗教的な儀式はお断りしておりましてー」


「ひぅ・・・あの・・・これは違くて・・・お・・・お手洗いお借りします!」


バタン!






ぴっ・・・


「ポンタカードあります?」


「はい・・・」


すっ・・・


ぴ・・・


「レジ袋いいっすかぁー」


「いらないです・・・」


「238円になりまーす」


ピンポーン・・・ピンポーン・・・


「あざっしたぁー」






バタン・・・


「真希ー、さっき店からケイオスDGのボーカルと銀髪の美少年出て来たぞー」


「・・・」


「どした?、何で泣いてんだよ?」


フルフル・・・


「あぅ・・・穴掘って埋まりたい・・・」


「あれ、からあげ君食わないのか?、よし俺が食ってやろう」






ぶろろろろ・・・


「ケイオスDGで思い出したんだけどさ、あそこに新しく入ったギターの子、銀髪美少年に似てね?」


「あ、俺もそう思った、何か関係あるのかな?」


「あのバンド、BouTubeで今バズってるよなぁ」


「あぁ、あんな事があった後だから軽はずみなことは言えねーけど、新曲の再生回数やばいだろ」


「正直羨ましいなぁ・・・俺らもバズらねえかな」


「あそこまでは望んで無いかな、メジャーレーベルが獲得に動いてるそうじゃん、俺らもインディーズから声かけてもらったけど断ったし」


「うちらはメジャーに誘われても今の仕事辞められるかっていうと・・・なぁ」


「それに悪目立ちすると伯父さんに迷惑かけるだろうからな」


「・・・あれ?、私のからあげ君が無い、空っぽだ!」


「あ?、お前が泣いてる時に食っていいか聞いただろ、返事が無かったから俺が食ったぞ」


「わーん!」







ブラザーズ・オブ・マーキー (バンドのオフィシャルサイトより抜粋)


メンバー


騨志薫(カオル) 25歳

ベース


騨志翔勇(ショウ)24歳

ギター


騨志真希(マーキー)21歳

ボーカル、キーボード、エレキバイオリン


Dr.Jeep(ドクタージープ)

ドラムマシーン

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