第2話 うっかり

 学校までは、歩いて15分ほど。もうあと、150メートルほど遠いところに住んでいたら、自転車通学できたんだけど。今まで、それがちょっと不満だった。

 でも、つい最近、徒歩でよかった~と思うようなことがあったのだ。

 その理由が、ちょうど前方からやって来る。そして、笑顔で私に言った。

「おはよう!」

 

 前方から歩いてきた彼の名前は、水原斗真みずはら とうまくん。転校してきて1日目で、クラスでも学年でも、あっという間に、彼は女子の人気をかっさらった。

 笑顔が、とにかく明るくて優しくて、素敵なのだ。声もいい。少し高めで、声を聞いているだけで、テンションが上がる、気がする。

 サッカーが好きらしく、昼休み、男子連中と運動場を駆け回っている姿も、かなりカッコいい。

 そんな彼と通学路が同じでよかった。一度、通学途中に出会ってからは、たまたまタイミングが合うのか、ほぼ毎朝のように、一緒に話しながら歩いて登校するようになったのだ。


「おはよう^^」

 思わず、私も笑顔になる。こんな顔を、に~にが見たら、なんて言うだろう。ニヤけすぎや、と渋い顔をしそうだ。

「テスト勉強、どう?」 

 水原くんが、笑顔できいてくる。

「まあまあ。でも、理科とかあんまりわからへんから、とりあえず大事そうな言葉だけ覚えた。……学校つく頃には忘れてるかもしれへんけど」

「ふふ。そっか。僕も、同じような感じや」

 水原くんが、にっこり笑う。

 

 そこから学校まで、2人で問題を出し合ったりしながら、歩く。

 学校に着いて、教室まで行くと、じゃあね、と私たちは、それぞれの席に分かれた。テストの席は出席番号順だ。私の苗字の佐野は、転校してきて出席番号がラストの水原くんからはとても遠い。

 他の女子たちが、めっちゃ何か言いたそうにしているけれど、テスト直前なので、みんなチラチラ見てくるだけで、助かった。

 

 1時間目は、国語だ。問題の枚数が多い。やりにくいなあ、と思いながら、問題を解いていると、2枚目に移ろうとしたところで、私は、その2枚目の問題用紙を、落っことしてしまった。すぐに拾いたいけど、事前の注意で勝手に拾ってはだめです、と言われていたので、私は手をあげた。

 ところが、監督の先生は、いつまで待っても来てくれない。テスト中だし、声を出して呼ぶのもなんだか気を遣う。

困った。消しゴムや鉛筆くらいなら予備があるけど、問題用紙は、なんともしようがない。だんだん気持ちが焦ってくる。時間足りるやろか? 

どうしよう。

どうしよう。

思わず頭を抱える。

そのときだ。私の右隣から声がした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る