第9話 知性の解明に向けた五個のメモ

 知性とは何か。私は、我々のような地球表層の生命に限定されず、もっと広範囲に適用できる知性の定義を考えてみたいと思う。それは次にようになる。


 知性とは、物質の動きを自己認識することである。知性は、物質に随伴して存在する。

 物質の動きを自己認識するためには、物質の動きを複写、あるいは要約した物質の変化が必要であり、その複写や要約された物質の変化に知性が発生する。

 知性が恒常性を持つ物質変化に発生しやすいのは、恒常性を持つ変化には、複写や要約が発生しやすいからである。


 知性とは何か。それはまだ、私には未解明の問題である。そこで、知性を持つ可能性のある生命体を五個考えてみた。これらの仮想された知性体が、知性とは何かを考える役に立つことを望んでいる。


【1:松明生命体】

 松明の炎から飛散する光を鏡で松明に返す。松明が光を受け取り、それを自分の発した光との関係性を現象させれば、そこに知性が発生する。


【2:陽子生命体】

 水素原子の陽子から電子が離れていき、その陽子に電子が返ってくると、陽子が出発した電子と到着した電子を識別する素粒子記号を持てば、その陽子に知性が発生する。


【3:テニスマシーン生命体】

 テニスマシーンからテニスボールを打ち出して、打ち返されて戻ってきたテニスボールをそのテニスマシーンがさらに打ち返す。ここにおいて、テニスマシーンがテニスボールが行って返ってきたことを認識すれば、テニスマシーンのテニスボール識別に知性が発生する。テニスマシーンは、テニスボールのラリーの動きから自己を知る。

 誰もが自分のことをよく知らないように、テニスマシーンはテニスボールが打ち返されてきたことを知る程度にしか自己認識を持たない。知性はその程度にしか自己認識を持たない。


【4:影的生命体】

 木の影にある土が、朝に太陽が東から登って西へ沈むまでに一回だけ自分が影の領域にいたことを自己認識するとする。この場合、その日に影になった土が次の日に自分が影になることとのちがいを識別できれば知性体になる。百回太陽が登って沈めば、影にある土は、百回、自分が影になったことを知る。


【5:崩壊性知性体「熱い方へ移動する岩石生命体」】

 恒常性を持たず、一回限りの自己認識をくり返しつづける生命体。

 例えば、「熱い方へ移動する岩石生命体」。衝突するたびに、熱の高い方へ移動しようとする岩石のこと。その岩石が衝突のたびに認識する熱反応の痕跡を集めると、その岩石は熱を自己認識する知性を持っているように見える。

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