第8話 無意識は道案内されるか

  1、無意識を知らざる導入


 デカルトは「我思うゆえに我あり」と述べた。存在の根拠は意識にあるという主張である。私はこれに異議を主張したい。

 世界の存在の最も基準となる根拠が意識であるのかどうか。それは疑わしい。意識より根源的な世界の存在として、意識の道案内をするものが存在する可能性がある。我々は、意識によってでしか世界の存在を認識することができないが、さまざまな現象から、意識よりも根源的な世界の存在を解き明かし、踏み込んでいくことができると私は考える。


  2、意識を道案内するもの


 私の意識は、意識でないものに道案内されているのだろうか。現在の科学では、意識は無意識に道案内されていることは証明されている。だから、「意識は道案内されているか」という問いには、「無意識が道案内している」と答えるのが正解である。


  3、無意識を道案内するもの


 意識の道案内をさらに追及して考える。

 「無意識は道案内されているか」。

 無意識を道案内する存在を確認できれば、意識の外の世界、さらに無意識の外の世界、それらが存在することを肯定することができる。

 無意識の外の世界は、自己を気絶させる格闘術、自己を気絶させる薬物の接種などによって確かめることができる。

 無意識は物質に道案内されている。


 それでは、私の人生は、無意識を道案内するものによって誘導されたものであったのかどうか。

 外界確認によって築かれた我々の文明は、無意識がただ道案内されて築いたのではなく、無意識が外界を確認して、それをもとに自分たちに有利な仕事を考え出して築いたものである。これは科学の実験観察のことだ。

 人類の10まで数を数える能力は、先天的なものではなく、文化環境や教育環境によるものだと、科学で解明されている。人類は、文化環境や教育環境がなければ、10まで数を数えることはできない。

 我々の無意識は、物質だけでなく、人類の文化環境と教育環境に強く道案内されている。


  4、文化環境および教育環境が含有する結論


 我々は、自我に目覚めた時から、文化環境および教育環境に誘導されて生きることになる。文化環境は、大衆によって望むべき文化の極みを手探りしながら、生まれては消えていく。文化環境はよく考えれば結論を含有しているのだが、その文化が流行している間は、その文化が含有している結論に誰も気付いていないことが多い。生まれては消えていく文化環境の中で、結論にたどりつく者はまれである。

 五年もすれば、ひとつの文化環境は消えてしまう。我々の無意識を道案内している文化環境は、結論にたどりつくことなく次の文化へ移行する。いったい人類はどれだけの文化環境を無駄使いするのか。いくつの文化の結論にたどりつけるのかは個人の探求度による。

 文化の結論にたどりついてもそれは記録されることなく、打ち捨てられていく。それが現在のこの国の文化運営姿勢だ。

 その文化環境に我々の無意識は道案内されている。我々は、自己の自主性を主張するために、このような文化環境と闘争することによって、主体的に生きるのである。

 我々の自主性は、無意識に道案内されたものだ。だが、我々の無意識は外界の万物と闘争することによって、生きる価値を作り出すものである。

 無意識が道案内されているか。されている。だが、我々の主体性がすべて道案内されてはいけない。我々の無意識は外界の万物と闘争して、自主性を持つことによって、万物の中で生きる個人となるのである。

 我々は、文化環境や万物と闘争することによって、生きる意味を見い出す。文化環境や万物と闘争しない無意識は、価値の小さな個人になってしまう。

 無意識を道案内するものとは、このように付き合うべきである。


  5、万物と道案内


 我々の無意識は万物に道案内されている。しかし、道案内は一方的に受動的なものではない。我々は、万物の道案内と闘争しなければならない。

 万物の道案内はどの程度、私を幸せにするだろうか。

 自分が生きているのが仮想現実の中だったとしたら、我々は強い敗北感を感じる。仮想現実の運営者に負けたくはない。

 同様に、自分が生きているのが万物の中だったとしたら、我々は強い敗北感を感じるだろうか。万物の運営者に負けたくはない。仮想現実の中で生きているのは敗北なのに、万物の中で生きているのは敗北ではないのはなぜだろうか。

 我々の無意識を道案内するものが、万物ほどに偉大なものであるなら、自己の敗北を許せるのだろうか。万物と闘争する自我を発見するべきだ。仮想現実を超えて、万物に手を伸ばすのだ。


参考文献。

A・E・ヴァン・ヴォクト「果たされた期待」(日本オリジナル短篇集「拠点」収録)

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