第7話 武器屋さんの期待

 武器屋は思っていた。「あの旅人、うちに立ち寄るたびに怪物の素材を売ってくれるんだよね。売ってくれる素材の怪物がだんだん強く堅くなっていくんで、武器屋で素材を買い取っているだけでわくわくしてくるんだよね。

 本当に大勢の旅人が怪物を倒して、その素材を武器屋に売りに来る。

 うちら、武器屋には、素材が入荷してくれれば開発できる武器や防具の開発計画や完成予想図がたくさんあるんだ。

 どの旅人がどのくらいの怪物の素材を持ってくるかがわかるのは楽しみなんだ。苦戦しているなあとか、旅は順調のようだなとか、いろいろわかる。

 うちらは何気なく素材を買い取っているけど、実は、時々、この素材を入荷したのは一年ぶりだなとか、二年ぶりだなとか、そういう素材を持ってきてくれる旅人さんがいるんだよね。

 最近は、冒険ってやつが流行っているから、怪物のいるような危険な郊外へ出かけるやつらは多いが、あの旅人さんもその一人だ。あの旅人さんが二年ぶりの素材を持ってきてくれた時なんかは、うちのじいさんも喜んじゃってさ、弟子たちを集めて、古文書にしかない素材が入荷した時の武器や防具の作り方なんかを計画しだしているんだよ。

 希少種の素材とか、秘密研究所の極秘ロボットの部品とか、素材をいじっているだけで楽しくてさ。

 あの旅人、いつ世界政治から隠された黒幕をやっつけるんだろう。そしたら、どんな素材を売りに来るかな。それだけでも、わくわくしないか。その素材を待つためだけに武器屋をやろうと思わないか。

 大勢の旅人が世界政治の隠された黒幕を倒しにいく。そして、大勢の旅人が黒幕を倒して帰ってくる。武器屋をしているとそういうことがわかるんだ。いったい、旅人に倒される黒幕は何人いるんだと不思議に思ってはいる。

 世界政治の隠された黒幕を戦闘後に残る素材から推理する。それもとても熱い武器屋の夢なんだよ。素材探偵だ。黒幕がいったいどの禁猟区の怪物を狩っていたか、とても知りたいね。

 武器屋はさ、王室御用達とかになれば、王族の持つ装備は知っている。王族の装備を秘密にするために、王族みずからが鍛冶屋をやらなければならないという王家もある。そこまでは想定の範囲内なんだよ。

 だけど、世界政治の隠された黒幕となるとそうはいかなくてね。旅人さんを応援するか、それとも、黒幕を応援するか、別れてしまうよ。黒幕の恩恵を受けているものたちも大勢いるだろうからね。

 うちらはさ、その中でも旅人さん支持だからさ。黒幕を倒すのに必要であろう装備一覧をあらかじめ想定して開発計画を立てているんだよね。それで、ひっそりと、あの旅人さんの通過地点を、黒幕を倒すのに必要な素材が集まるところを立ち寄るように誘導しているんだ。迷惑かもしれないけど、ずっと武器屋やっているやつってのはそういうもんなんだよ。

 大勢の旅人が黒幕を倒したことを知っている我々武器屋は、旅人と黒幕の強さに詳しい。黒幕を倒すのに必要な装備を旅人が手に入れているかどうかを見極めている。

 いやあ、旅人さんと黒幕のどっちが正しいんだろう。つまり、どっちが先の未来を見通して賢い判断をしているんだろう。そんなことを考えて武器屋やっています。すごく楽しいです。」

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