しかしてその実体は、

「俺んこと、父はイチヤで母はタケルで弟はミツアキって呼ぶんですけど、全部俺の本名にかすりもしないんですよねずっとそうなんで慣れてますけど」と喫煙所のベンチに掛けて咥え煙草で笑う後輩に相槌を打ちつつ、いつもと同じ銘柄セッターの煙を燻らせる後輩の名前を自分も思い出せないことに気づくが、こいつも藤谷だの芦原だの葭田だの三種類ぐらいで俺のことを呼ぶんだよなと思いながら、それを指摘しようにも煙越しにこちらをまっすぐに見ている後輩の黒々とした目を見返すことがどうにも躊躇われ、俺は曖昧な返答を紛らわすように煙を吐く。

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