覚えのいい灰皿

 終電を逃したり見送ったりした連中で先輩の家に雪崩れ込んで始めた二次会で、適当に買い込んだ酒とつまみで馬鹿の飲み方をしていたやつから順に潰れて俺と先輩だけが残った深夜、適当に点けたテレビでやっていた映画を煙草片手に眺めている最中、灰皿に灰を落とそうとした途端先輩が当然のように両手を差し出したので何事かとそのまま黙っていたら、先輩は一度瞬きをしてから「昔、こうしろって言われたから、癖で」とだけ言って目を伏せてしまったので、誰にとか癖になるほど繰り返したのかまだ覚えているのかなどと色んな疑問が脳内を巡るが、何ひとつ口に出せずに俺はただ指先で短くなっていく煙草の赤々とした火を見つめている。

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