手加減

 付き合いで参加した飲み会がようやく終わり、盛り上がった連中が二次会がどうのと騒いでいるのを横目に逃げ出す頃合いを見計らっていると、群れに背を向け悠々と遠ざかっていく先輩に気づいたので、黙って追いかけ角を曲がったあたりで追いつき、先輩だけ逃げるの卑怯じゃないですかと手を少しだけ強く掴んだ途端に重心が崩れそのまま座り込んでしまい、見れば俺の手は先輩の腕を肩口から丸々一本掴んでいて、呆然としている俺を「乱暴すんなよ、困るだろ」と笑って見下ろす先輩のスーツの右袖は空のまま生温い夜風にふらふらと揺れている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る