人は去りゆく、煙は残る

 喫煙所でよく会うバイト先の先輩は、着どころが思いつかないようなひどい柄のアロハや苦手なフレーバーの煙草を土産だと寄越したり、機嫌のいいときには面白がるのにそれなりに知識と覚悟がいる類の映画や全席喫煙可の喫茶店なんかを煙草片手に端々の掠れるざらついた声で教えてくれたのに、ある日突然シフト表から先輩の名前が消えて些細な私物も何もかもが片付けられ同僚たちも何となく名前を口にするのを止め先輩という存在がなかったことになってから、あの人誕生日と連絡先だけは結局教えてくれなかったなと吐いた煙のどうしても好きになれない甘ったるい匂いに眉を顰めながら、煙草の灰を空缶に落とす晩冬の夜。

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