朝の電車で会った人だろ

 毎朝電車で見かける黒いスーツの地味な男は、月に二回ほどの頻度で右腕や左脚などの身体の部品が欠けていることがあり、最初に見たときはとりあえず席を譲るべきかと悩んだが、本人は揺れる車内の中で平然と立っており普通にいつもの駅で降りていくので、そういう体質か芸風なのだろうと納得していたのだが、今月に入ってから彼の首がない状態がかれこれ一週間ほど続いており、その上俺の向かいに座るようになったので何か意図でもあるのだろうかと思いながら、首がないので表情や視線を読むこともできず当然話しかける度胸もないため、俺はないはずの視線を感じながらさして面白くもない文庫本を熟読するふりをしている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る