夜と灯、月に煙

 ベランダで点けた煙草の火がいつもより赤く見えて、吐いた煙が少しだけ長く残るようになって、月が苛立つほどに明るく光るようになると、吸っていた煙草の匂いも好きだったバンドも嫌いな作家も旅先で浮かれて買った馬鹿みたいなシャツの柄もいつも飲んでたビールの銘柄も苛立つと机を指先で叩く癖も飲みの誘いを断ったときの表情もあの着信に気づけなかったことも病院に着いたときには何もかも終わっていたことも投げ出された指先の白さもまだ覚えているのに、俺の名前を呼んでくれていた声だけもう思い出せないことを確かめては、あの人がいなくなった季節が来たのだと気づく。

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